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30.さらば、リゾートホテル(13)
「このたびは当ホテルへのご宿泊、誠にありがとうございます。またのご利用を、心よりお待ち申し上げております」
「はい。また、ぜひ。お世話になりました」
快適極まりない客室に別れを告げた俺たちは、フロントでチェックアウト手続きを終える。
あとはホテルの外で待機している、船舶ターミナルを往復する送迎バスに乗って帰るだけとなった。
このホテルは原則、午前十一時チェックアウトなのだが、何らかの理由で早く帰る宿泊客のために、午前八時から一時間おきにバスの往復運行をするのだという。
で、現在時刻は午前九時五十分ちょっと前。
バスの出発まではもう少し時間があるので、先に乗車手続きを済ませ、荷物をトランクスペースに預けておいた。
「これでよしと。ミオ、忘れ物はない?」
「うん。ウサちゃんもリュックサックに入れたよ」
「トイレには行かなくても大丈夫?」
「お部屋にいた時にしちゃったから平気ー」
「そっか。じゃあ後は、バスが出るまで日陰で待つとするか」
「そだね」
「柚月 さん! 未央 さーん!」
ホテルの軒下で涼みながらバスの発車待ちをしていると、エントランスホールの方から、俺たちを呼ぶ声がした。
どうやら約束どおり、如月兄弟が俺たちを見送りに来てくれたようだ。
「レニィくーん。おはよ!」
「おはようございます! 急いで走って来たんですけど、間に合ってほんとによかったです」
「何だか悪いね、俺たちの都合に合わせて来てもらっちゃってさ」
「いえ、そんな。僕たちが言い出した事ですから……」
「あれ? そう言えば」
と、ミオが周囲をキョロキョロし出した。
「ユニィ君は来てないの?」
「あ、ユニィはもうすぐ来ます。実はあの後、お見送りにパパとママも連れて来ようって話になったんです」
「え? そうなんだ」
来てくれるのはレニィ君とユニィ君だけだと思っていたが、何と、一家総出で俺たちを見送ってくれるというのか。
「それで、どうせ外に出るのなら、そのままみんなで海に出かけられる準備をして行こうって事に決まって。今は外出の手続きを……あ、終わったみたいです」
エントランスホールに目をやると、フロントから早足で駆けてくる三人組の姿が見えた。
一人はもちろんユニィ君。
そして、そのユニィ君から手を引かれてこちらへやって来ている夫婦が、如月兄弟の親御さんなのだろう。
「お待たせっ!」
「もうー、みんな遅いよぉ。柚月さんたちが帰っちゃってたらどうするつもりだったの?」
「だってぇ。パパが手続きでオロオロしてたんだもーん」
ユニィ君が頭の後ろで腕を組み、呆れた様子でそう答えた。
「お、お初にお目にかかります。レニィとユニィの父です。柚月さんと未央さんですね」
「グッモーニン! ナイストゥーミーチュー!」
若干おどおどした様子のお父さんと、和の国にて普通にネイティブな英語で挨拶してくるアメリカ人のお母さんか。
こうして二人の顔を見比べてみると、やっぱり如月兄弟は、母親の遺伝子を強く受け継いでいるようだ。
ところでこの対照的な夫婦が、一体どういう縁で結ばれたのか、少し気になるところではあるな。
「初めまして。柚月とミオです」
「こ、この度は、レニィたちがお世話になったとの事で……ぜひ、お礼を言わせてください」
「そんな、お礼だなんて。こちらこそ、出過ぎた事をしたんじゃないかと思っていましたから」
「いえ、とんでもありません! 貴方たちのおかげで目が覚めました。私たち夫婦には、考古学の書物や出土品なんか比べ物にならないような、世界で一番大切な宝物があるって事に、ようやく気付けたんです」
日本語が分かっているのかどうか判別しかねるが、レニィ君たちのお母さんは手を組み、旦那さんの言葉一つ一つに大きく頷いている。
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