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30.さらば、リゾートホテル(14)

「自分を恥ずかしく思います。私たちはもう少しで、親として、そして、人としての道を踏み外すところだったのですから」  人としての道、か。  この人にそこまで言わせるって事は、昨日の一件がよほど(こた)えたと見えるな。 「これからは心を入れ替えて、かわいい息子たちと向かい合っていこうと思います。お二人とも、本当にありがとうございました」  そう言うと同時に、旦那さんと嫁さんは、俺たちに向かって深々とおじぎをした。 「……今日が再出発(リスタート)ですね。お仕事と子育ての両立は大変かも知れませんけど、ぜひ、お子さんたちを愛してあげてください」 「はい。夫婦で力を合わせて、全力で愛情を注ぎます!」  俺たちの会話を後ろで聞いていた如月兄弟は、カラオケの時とは比べ物にならないほどの、はち切れんばかりの笑顔を見せてくれた。  きっと今のお父さんの言葉が、この子たちの心に響いたのだろう。  良かった良かった。これで一件落着だな。 「十時発、船舶ターミナル行きのバス、まもなく発車いたします。ご乗車の方はお急ぎくださいませー」  送迎用マイクロバスから降りてきたホテルの従業員さんが、乗客の最終確認を行い始める。  いよいよ、帰る時が来たんだな。 「それでは、自分たちはこれで失礼します。わざわざお見送りに来ていただいて、お心遣い痛み入ります」 「いえいえ、滅相もありません。お帰りの道中、どうかお気をつけて!」 「レニィ君、ユニィ君、バイバーイ」 「あっ! ちょっと待ってください!」  バスに乗り込もうとする俺たちを、レニィ君たちが駆け足で呼び止める。 「ん? どうしたんだい?」 「あの、これ……僕たちの連絡先です」  レニィ君がもじもじしながら差し出した一枚の紙には、郵便番号と住所、そして携帯電話の番号が書かれていた。 「あ。この番号って、レニィ君たちの?」 「そうです! レニィとぼくの持ってる携帯電話です」 「えと、せっかくお知り合いなれたお二人とこのままお別れになるのはさみしいし、時々でいいから、お手紙とか電話をくれると嬉しいなって思って書きました」  そうか。この子たち、そんなに俺たちの事を気に入ってくれたんだな。 「ありがとう。じゃあ、この紙はもらっておくよ」 「ボク、お手紙書くね!」 「うん! ぼくたち、楽しみに待ってるから!」  ショタっ娘たちの間で芽生えた友情か、微笑ましくていいもんだな。 「あの。柚月さん」 「何だい? レニィ君」 「僕たち、また会えますよね?」  その期待の込もった問いに対し、俺は少し考えてから、こう答えた。 「そうだね。また、どこかできっと会えるよ。その日が来るまで、お互い元気でいようね」 「はい……!」  俺は再会を約束する証として、握手をしようと思い、右手を差し出す。  その手をぎゅっと包むように握ると、レニィ君はいよいよこらえ切れなくなったのか、ぽろぽろと涙をこぼして泣きじゃくった。  この子はきっと最後まで、別れの辛さを押し殺そうと頑張っていたんだろうな。  いいんだよ、泣きたい時は泣いたって。  俺は残った左の手でレニィ君の頭を撫で、そして改めて、お互いの再会を約束した。  お別れするのは辛いけど、いつかきっと、再び会える時が来ると信じているから、今はとにかく前を向こう。 「さようならー! またね!」  ホテルから出発するマイクロバスの窓を開け、ミオは如月家の四人に何度も手を振る。 「さようなら! どうかお元気で!」  レニィ君たちも、お互いの姿が見えなくなるまで、ずっと手を振り続けていてくれた。  もう二度と来れないわけじゃないんだけど、こうしてホテルから遠ざかっていくと、やっぱり少しさみしくなるよなぁ。  わずか二日とは言え、宿泊期間中は二人だけの思い出をたくさん作れたし、かわいいショタっ娘兄弟との出会いもあった。  思い起こせばキリが無いけど、ミオも俺も、心からバカンスを楽しむ事ができた、濃密な二日間だったと思う。  さらば、リゾートホテル。  ありがとう、佐貴沖島(さきのおきしま)。  また来年の夏、二人で必ず遊びに来るからな。 第二章 二泊三日のリゾートホテル 完

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