239 / 822

31.休日明けのとある一日(1)

「よっ! 柚月、おはようさん」  有給休暇明けの早朝。  いつもより早めに出社した俺に、同僚の佐藤が元気よく声をかけてきた。 「おはよう。調子良さそうだな」 「そりゃあもう。お前がおらんかった間、割といい結果が残せたさけぇの」 「ほー。そりゃ将来の嫁さん候補が見つかったって意味でか?」 「あぁ、あれの事かいな。そっちはてんでサッパリやったで。やっぱ若い子狙いすぎたのがアカンかったんかなぁ」 「若い子? 女子高生とか?」 「んなアホな、夜の街やぞ。そんなとこにおる女子高生引っ掛けとったら、オレ、なってまうやないかい」  佐藤は呆れ顔でそう言いながら、両手を前に突き出し、手錠をはめられるジェスチャーを見せる。  社会人と女子高生の恋愛ってそんなにダメかなぁ?  普段から、十歳のショタっ娘に求婚され続けているもんだから、俺の感覚が麻痺しているだけなのかも知れないが。 「オレが声掛けたんは新卒の子とかや。さすがに、入社間もない子らはまだまだ仕事に熱心やからか、取り合ってもくれんかったわな」 「じゃあ、もうちょい年上の人に行けば?」 「今度はそうするわ。ほんで、お前の方はどないやったんや。リゾラバは見つかったんか?」  リゾラバは三十年くらい前に流行った言葉なので、今や滅多に使われないのだが、要するに、リゾート地におけるラバーの事。  ラバーは天然ゴムとか、そういう意味ではなく、恋人のLOVERから来ている。  つまり佐藤は、リゾートホテルに二泊した間、一時(いっとき)の恋人が見つかったのかと聞いているのだ。 「そんなの見つかるわけないじゃん。佐藤、俺の性格知ってるだろ」 「カァーッ! お前がそこまで奥手やとは思わなんだわ。あーもったいない」 「そうは言うけど、リゾラバなんて結局幻想みたいなもんだし」 「んな事あらへん。ああいう場所では解放的になった子が多いから、意外といけるもんなんやで」 「そりゃ普通の海とかの場合じゃないの? 俺たちが行ったのは格調高いリゾートホテルだから、客は家族連れとか老夫婦ばっかりだったぞ」 「そうなんか。ほな、女一人の傷心旅行とかは?」 「ないない。あそこ、一人で泊まる部屋を提供するような場所じゃないし」  俺はきっぱり否定した後、カバンから一つのフォトフレームを取り出し、佐藤に手渡した。 「お、これはオーシャンビューの写真か」 「そう。俺たちが泊まってた部屋だよ。あまりにもいい景色だからさ、佐藤へのみやげにしようと思って撮ってきたんだ」 「さよか。そら、おおきに」 「部屋も広いし、豪華だし、すごく快適だったぞ。そんなとこにお一人様でお泊まりだなんて、ハイシーズンでも採算取れないって」 「言われてみりゃそうやな。ほんなら、観光名所でネーチャン引っ掛けたりとかは?」 「んー。初日は名所めぐりと魚釣りだけで精一杯だったからなぁ」 「じゃあ、夜のホテルのラウンジでネーチャンとの出会いも無しか」 「はぁ。お前の頭の中、そればっかりだな」

ともだちにシェアしよう!