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31.休日明けのとある一日(5)

 そりゃミオは男の子だから子供は作れないかも知れないけど、今時子供のいない夫婦なんて珍しくもないし、どうしても欲しいと思ったら、養子をもらうという手もあるからな。  万が一、俺が他の女性と結婚したいという意思表示をしたら、俺に一途なミオのジェラシーが爆発して、きっと大変な事になるに違いない。  だから、やっぱり合コンに行くという選択肢は無いかな。  さて。俺と女の子に関する話はこの辺にしといて、また今日からバリバリと働きますか。  何しろ、家ではかわいいショタっ娘が俺の帰りを待っているんだからな。あの子のためにも、お賃金をしっかり稼がないと。  ……と、意気込んで仕事に取り掛かりはしたものの、やはり人生というものは、なかなかままならないものだ。  結局この日は、始業から終業時間まで、思ったほどの力は出せなかった。  バカンス明けでまだ頭の切り替えが出来ていないのもあってか、体とカンが鈍ってしまっていている感じだ。  仕事の内容が内容なだけに、以前の調子を取り戻すのに数日かかる、なんて悠長(ゆうちょう)な事は言っていられない。  明日までには、自分の持つポテンシャルを遺憾(いかん)無く発揮できるよう、キッチリ修正しておかないとな。  という事で今日は残業もそこそこにして仕事を切り上げ、いつもの商店街で晩ご飯の惣菜を買った後は、寄り道もせず家に帰ったのだった。 「ただいまー。ミオ、帰ったよ」 「お兄ちゃん、お帰りなさーい!」  施錠されていた玄関のドアが開き、俺の声が聞こえると、いつものようにミオが小走りで出迎えに来てくれる。  そして、俺の元気そうな姿を見て、ミオが勢いよく抱きついてくるまでが、我が家の恒例行事だ。  ただし、俺の体の不調や、あるいは疲労していると察知した場合は、ミオは気を遣って、普通にお出迎えするだけに留めるのである。  時折、その不調なんかを声だけで見抜く場合もあるので、この子には、カラ元気などのごまかしは一切通用しない。  感情の起伏を読む事に()けているのか、もしくは動物的な直感が働いてそうさせるのかは分からないが、とにかくうちの子猫ちゃんは鋭いのだ。  もし万が一、俺に浮いた話があった日の帰宅時なんかは、きっとミオは何かを読み取って、疑心暗鬼な様子で俺を出迎えに来る事だろう。 「ミオ、さみしくなかったかい?」 「うん、大丈夫だよー。今日はね、ウサちゃんと一緒にテレビを見てたの」  ミオの言う〝ウサちゃん〟とは、以前ウサギオンリーの動物園で買ってあげた、ロップイヤーなウサギのぬいぐるみの事である。  そのぬいぐるみをミオは後生大事にしていて、まるで本物のペットであるかのごとくかわいがっているのだ。  時には、そのぬいぐるみを俺の分身に見立てて甘えたりして、とにかく大切にしてくれている。

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