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31.休日明けのとある一日(6)

「そっか。今日は何の番組を見てたんだい?」 「えっとね、さっきまでは、おっきなお料理を作る番組を見てたんだよ」 「大きな料理?」 「そだよー。なんかね、『ダイオウイカを使ってイカ飯を作ろう!』って言ってて、面白そうだから見てたんだー」 「うへぇ。そりゃまた大味な企画だなぁ」  ダイオウイカはその名の通り、イカの大王と呼ぶに相応しい大きさを誇っていて、最長で十八メートルにも及ぶと言われる。  そんな巨大イカの胴身に飯を詰めようと思ったら、一体何合の米を炊けばいいのやら。 「それで、ダイオウイカのイカ飯は出来たの?」 「んーん。ダイオウイカってアンモニア? の臭いがして食べられないらしいから、結局ソデイカってイカで作ってたよ」 「ソデイカって聞いた事ないな。どのくらいあるんだろ」 「赤くてうーんとおっきいんだよ。ボクじゃ持ちきれないくらいあるの」  ミオはそう言って両手を横に大きく広げ、ソデイカのサイズ感を表現した。 「でね、お米を詰めて作ってみたんだけど、そのお米が炊けてなくて失敗しちゃったんだー」 「ん? つまりイカ飯を作る時は、炊き込む前の米を詰めるって事かな?」 「そうみたいだよー。お米に出し汁を吸わせるから、炊いたご飯じゃダメなんだって」 「だったらたぶん、そのイカ飯失敗の原因は、イカの身が分厚すぎて、米に熱が通らなかったんだろうな」 「うん。テレビの〝なれーしょん〟の人もそう言ってたよ」 「まぁ夢のある企画ではあるけど、さすがにそんな肉厚のイカじゃあ、ご家庭でまともなイカ飯を作るのは難しいだろうね」  ミオは商店街で買ってきた惣菜のレジ袋を受け取りながら、こくりと頷く。 「でも、あの番組を見てたら、そんなに大きくなくてもいいから、普通のイカ飯を食べてみたいなーって思っちゃった」  ミオがそう言って喉を鳴らす。  普通のイカ飯か、そういや俺も久しく食べてないな。  駅弁だと定番の商品だし、今はネット通販でも買えるんだけど、できれば炊きたてのホクホクなやつを食べさせてあげたいよなぁ。  よし、ここはかわいいミオのために、俺が一肌脱ぐとするか。 「ミオ」 「んー? なぁに? お兄ちゃん」 「今度の土曜日、イカ飯を食べに行こうか」 「うん! イカ飯食べたーい。でもお兄ちゃん」 「何だい?」 「イカ飯ってどこで食べるの?」 「えーと、それはだな。作りたてのイカ飯を食べさせてくれるお店……かな」 「そんなお店があるんだ?」 「たぶんね」  自信なく答えたその理由は、少なくともうちの近所には、イカ飯をメニューとして出している食堂があるという話を聞いたことが無いからだ。  ああいう特殊なご飯ものは、居酒屋か小料理屋なんかで酒のとして出されているのかも知れない。 「晩ご飯を食べ終わったら、ネットを使って、近くにイカ飯のお店がないか調べてみようよ」 「分かったー。じゃ、先に晩ご飯だねっ」 「うん。もういい時間だし、さっそく食べちゃおう」 「はーい」

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