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32.イカ料理を食べよう!(3)
言われてみりゃ、確かにそうだよな。
イカ飯を最初に作った人は、何でイカにしようと思ったんだ?
いかに豊漁だったからといって、そのイカの胴体に米を入れて炊こうだなんて、まず普通の人には思いつかない発想だろう。
すでにイカの寿司で相性の良さを知っていて、イカと米は合うと知っていたとか?
でも、当時は戦時中で深刻な米不足だったわけだから、果たしてイカを寿司のネタにする余裕があったのかどうかが分からない。
戦後の話になるが、白米は銀シャリと呼ばれて重宝され、茶碗一杯分の値段もべらぼうに高かったと聞くし、やっぱり寿司から着想を得たというセンは無いのかなぁ。
なにぶんにも古い時代の話だから、イカ飯が完成するまでの細かい歴史に関しては不明な事だらけだ。
とにかく当時の道南ではスルメイカがたくさん獲れていた事と、そのスルメイカにもち米、そしてうるち米……つまり白米を詰めて作ったのがイカ飯の起源である、という事だけは分かった。
「じゃあ、今度はイカ飯の作り方を見てみよっか」
「うん。夕方に見てたテレビ番組の作り方と同じ、じゃないよね」
「ははは。そっちは規模が大きすぎて、たぶん参考にはならないかな」
同じテレビでも、料理番組とバラエティでは、コンセプトが大きく異なる。
いわゆる奥様方に向けて発信する料理番組は、レシピや火加減などを丁寧に解説するが、バラエティの場合は面白さを優先するため、それらは度外視される事が多い。
かと言って、料理番組は料理番組で、自分が作りたいものをピンポイントで放送してくれるわけではない。
よって、まじめにイカ飯の作り方を知ろうと思い立ったら、本やネットなどを駆使して、自力で情報を仕入れるしか手段が無いのだ。
で、たどり着いたこのサイトによると、まず食材の種類と分量が絵付きで紹介されていたので、そこから読み始める事にする。
「えーと。まずはイカを四杯用意するんだって書いてあるけど。これは四人分って意味だよな」
「ヨンハイ?」
〝杯〟がよほど聞き慣れないフレーズだったのか、ミオは右頬に人差し指を当て、首を傾げる。
「そう。イカは他の魚と違って、一杯、二杯で数えるんだよ」
「えー? 何で?」
「何でだったかな……確か、イカの胴体を容器に見立ててそう数えるんだったような。うろ覚えだけどね」
「じゃあ、一匹二匹は間違いなのかな」
「それでもいいんじゃないか? 匹数で数えても間違ってるって言われたことないから、たぶんどっちでも正解なんだよ」
「ふーん。いろんな数え方があるんだね」
今の説明で納得したのか、あるいは、あまり好奇心をくすぐられる話でもなかったのか、ミオはそれ以上、イカの単位について何も尋ねてこなかった。
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