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32.イカ料理を食べよう!(5)

「大丈夫だよ。料理酒はさっき言ったように、食材の臭みを消したり、他にも煮込む物を柔らかくするために使うんだけど、アルコールは火にかけるとほぼ全部飛んじゃうんだ」 「アルコールが? 飛ぶ?」 「そう。料理酒の中のアルコールが気体になって、飛んでいっちゃうんだよ」  俺は少し大げさに両手をパァッと広げ、アルコールが気化する様子をジェスチャーで表現した。  アルコールには揮発温度というものがあり、その温度、つまり七十八度に達すると、アルコールは揮発し、気体になる。  この現象を料理に当てはめて言うと「アルコールを飛ばす」になるのだ。 「じゃあ、お酒じゃなくなっちゃうの?」 「そうだよ。だから、出来上がったイカ飯は、ミオも安心して食べられるようになってるのさ」 「そうなんだぁ。よかったー」  食べたい料理に対する不安が取り除かれた事で、ミオはホッとした様子で胸を撫で下ろす。  しかし、こうやってレシピを眺めていると、イカ飯って案外シンプルなものなんだな。  調味料はスーパーで全部揃えられるし、イカも鮮魚売り場か、あるいは魚屋に行けば手に入るだろう。  これなら俺でも作れるんじゃないか?  ……って。ちょっと待てよ、俺は一体何を考えているんだ。  サイトに書かれたレシピと調理方法を読み進めるうちに、完璧なイカ飯を、ご家庭でも簡単に作れそうな気分になってきてやしないか。  言うは易し行うは(かた)し。俺みたいな素人の一朝一夕で、ミオが喜んでくれるような、おいしいイカ飯を作れるわけがないだろう。  いかんいかん。うっかり自分の事を、腕利きのシェフか何かだと勘違いするところだった。  そもそも俺が言い出しっぺで、イカ飯とは何たるかを知るためにこのサイトを開いたのであって、自炊マニュアルをしたために訪れたのではない。  今度の土曜日は、ミオと二人っきりでイカ飯を食べられる食堂、あるいはレストランで外食デートをするはずだったのだ。  外出先によるデートで、おいしい物を食べる。それが今回の主目的だから、これ以上イカ飯の作り方を深堀りする必要はないだろう。  とにかくイカ飯は、イカやうるち米などの食材と、醤油ベースの味付けでもって炊き込まれる料理だという事がよく分かった。  よって、このチンパンジーでも分かるという触れ込みのサイトはお役御免。  お次はそのイカ飯をメニューとして出しているお店探しにかかろう。  ところで、イカ飯はご飯ものという分類でいいのかな。  イカ飯定食なんて聞いた事無いけど、米を詰めて作る料理だから、やっぱり主食というカテゴリーで出されるのかねぇ。  その辺の事情も含めて調べてみるか。

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