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33.夜のデートはイカ尽くし(9)

 生簀のイカは、メニューに載っていたイカの活け造りや、イカの握り寿司などの食材になるかも知れないわけだし。  なんて考えているうちに思い出したが、そういや、ご飯もののメニューには寿司もあったんだよな。  シャリに大葉と新鮮なイカの切り身を乗せて握られた寿司を、刺し身醤油につけて食す。  ああ、想像しただけで腹が鳴ってきそうだ。  でも今日は二人で話し合って、イカスミ炒飯とイカ飯を半分こにして食べると決めたのである。  だから、イカの握りはまたの機会にしよう。 「ねぇお兄ちゃん」 「ん?」 「お兄ちゃんはイカを釣った事あるの?」 「一応あるけど、たった一度だけだよ。俺が子供のころ、親父に連れて行ってもらって、スルメイカ釣りに挑戦したんだ」 「スルメイカって昔、初めてイカ飯を作る時に、たくさん獲れてたイカの事だよね」 「そうそう。そのイカを釣って食べようって話になって、実家の近くにある海まで行ったんだよ」 「ふーん。たくさん釣れた?」 「まぁ、二人で十杯くらいだな。それも小さいのばっかり」  と言って自虐的に笑ってみせたが、話を聞いているミオは、興味しんしんといった眼差しで俺を見つめてくる。 「お兄ちゃん、イカの釣り方って普通と違うんでしょ。どうやって釣ったの?」 「えーと、あれは何だったかな……。確か、キビナゴを巻いて釣ったような覚えがあるけど」 「キビナゴを巻くの?」 「うん。特殊な針と言うかフックと言うか、とにかくその仕掛けにキビナゴを巻きつけて、寄って来たイカに抱かせるのさ」 「んー? 抱かせる?」  イカがキビナゴを抱くという状況に想像がつかないのか、ミオが首を傾げた。 「イカはね、エサになる魚に抱きついて食べるんだよ。で、その時にフックに引っ掛かると、逃げられなくなって釣り上げられちゃうわけだ」 「へぇー、そんな食べ方をするんだ。じゃあ、普通の釣り方じゃ釣れないよね」 「まぁそうだな。イカはオキアミとかには興味なさそうだし、まず、一般的な釣り針じゃ引っ掛けられないからね」 「ね。ボクがキビナゴを使っても釣れるかな?」  よほどスルメイカを釣ってみたいのか、ミオは俺の返事に期待を寄せて尋ねてくる。 「もちろんさ。子供の時の俺ができたくらいだから、きっとミオも釣れると思うよ」 「ほんと? よかったぁ。いつか、イカ釣りをやってみたいなー」  実を言うと、ミオにイカ釣りをさせてあげるためのプラン自体はある。  それは、来たる八月の盆休みで実家に帰省した際、物置に眠っている釣具を持って海に繰り出すというものだ。

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