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33.夜のデートはイカ尽くし(11)
「あの生簀 のイカは刺し身、あるいは活け造り用ですので、釣りをご希望のお客様には、どちらかの料理のご注文を頂戴する事になります」
まぁそれはそうだよな、釣ったイカをまた生簀に戻すんじゃあ、ただイカをいじめているだけになるから。
このお店でイカを釣るって事は、すなわち命を頂く事であり、俺たちはその行為に責任を持たなければならない。
「ミオ、釣りしてみたい?」
「うん。でも、釣ったイカは食べるんだよね? ボク、そんなにいっぱい食べられるかなぁ」
現在頼んでいる料理は、今しがたテーブルに並べられた茹でイカと夏野菜のサラダ、アオリイカの天ぷらだろ。それに加えて、後からイカのぽっぽ焼き、イカスミ炒飯とイカ飯、そしてイカ団子の汁物も来る事になっている。
そこに活け造りか刺し身がプラスされる事になるわけだから、確かに食べる量は相当なものになるよな。
「お客様。よろしければ、別の生簀にてヒイカの釣りも体験できますが……」
「ヒイカ、ですか?」
「はい。今のヒイカはだいたい十センチに満たないくらいなので、一杯や二杯ほどでしたら、バター炒めにしてお出しさせていただきます」
「なるほど、そんな小ぶりなのもいるんですね。ミオ、ヒイカなら食べられそう?」
「たぶん大丈夫! バター炒めも食べてみたいな」
「よし、それじゃあ釣ってみるか」
店員さんの提案を検討した結果、話がまとまった俺たちはヒイカ釣り体験をお願いし、さっそく小さな円形の生簀に案内された。
その生簀の中では、手のひらに収まりそうなくらいな小さいヒイカの群れが、ところ狭しと泳ぎ回っている。
「見て見てお兄ちゃん! かわいいイカちゃんがたくさんいるよー」
「うん、確かに小ぶりだ。一口にイカと言っても、こんなにたくさんの種類が海にいるもんなんだなぁ」
姿勢を低くして、ミオと一緒にヒイカの泳ぐさまを眺めていると、店員さんが、傍らの竿立てに置かれていた釣り竿を手に取り、俺たちのもとへとやって来た。
「こちらがヒイカ釣りのセットになります。二名様のご利用でよろしいですか?」
「あっ……と、僕はいいです。この子の分だけお願いします」
「えー! お兄ちゃんもやろうよー」
ミオが俺の上着の袖をきゅっと引っ張り、ヒイカ釣りを促してくる。
「でも、俺はもう子供のころにやったから。今日はミオに楽しんで欲しいんだよ」
「ボク、お兄ちゃんと一緒に釣りがしたいの。おねがーい」
そう言うとミオは、服の袖を掴んだまま、無垢な瞳で俺の顔を見上げてきた。
まいったなぁ。かわいいショタっ娘にそんな目でお願いされちゃったら、絶対断れないよ。
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