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33.夜のデートはイカ尽くし(12)

「分かったよ。じゃあ、一杯ずつ釣って料理してもらおっか」 「うん。ありがとうお兄ちゃん!」  俺と一緒に釣りをできるってのがよほど嬉しいのか、ミオは周りの人目もはばからず、ぎゅーっと抱きついてきた。  その甘えっぷりが嬉しくもあり照れくさくもあり、そして何よりも、こんな美少女顔のショタっ娘に抱きつかれた事である種の優越感を覚えた俺は、ついつい顔がニヤついてしまう。  年下の彼女ができるって、きっとこういう事なんだろうな。 「よーし。そうと決まったら、さっそく釣りにチャレンジしよう」 「そだね。でもお兄ちゃん」 「ん?」 「この仕掛けで、ほんとにイカが釣れるの?」  ミオは釣り糸の先端に結び付けられた餌木(えぎ)をしげしげと眺めながら、釣果の心配をしている。  一般的に、イカを釣る際は、カラフルなスキンを巻きつけ、イカのエサとなる魚に擬態したルアーの一種である餌木を用いる。  餌木が普通のルアーと異なる点で最も目を引くのは、イカを引っ掛ける針の形状だろう。  餌木の尻尾部分には無数の針が傘状に伸びており、この部分はカンナと呼ばれる。  で、その餌木に抱きついたイカの足が、カンナに引っ掛かって外れなくなり、そうやって初めて釣り上げられる仕組みになっているのだ。  まだエサ釣りしかやった事のないミオにとって、初めて見る疑似餌は珍しく、そして、その疑似餌でほんとに釣りが成立するのかどうか、疑問に思ったのだろう。  こういうのは口で説明するよりも、実際に釣り方のお手本を見せてあげるのが手っ取り早いかも知れない。  という事で、さっそくヒイカ釣り開始。 「ミオ、俺がやってみせるから見ててごらん。イカ釣りでイカを寄せる時は、こうやって餌木をしゃくってみるんだよ」 「ふんふん。それって、〝えぎ〟を魚みたいに見せかけるって事?」 「お、さすがに察しが良いな。イカはフィッシュイーターだから、活きの良い魚に抱きついて食べる習性があるのさ」 「じゃあ、こうしてしゃくってると、イカは元気な魚のエサだと思って寄って来るんだね」 「そういう事」  俺たちは背の低い生簀を囲むようにかがみ込み、イカの群れ近くに釣り糸を垂らし、時折竿を上下させて餌木を動かす。  しばらくすると、俺の反対側で仕掛けを落としていたミオの方にイカが抱きつき、細い竿がグンとしなった。 「あっ! お兄ちゃん、イカが抱きついたよー」 「よし、それじゃあ針が外れないように、慎重に竿を上げてみようか」 「はーい。イカちゃん、逃げないでねー」  俺たちが渡された竿にはリールが無い。なので、仕掛けを引き上げる時は、いわゆる〝手返し〟という方法で、竿を立てて獲物ごとぶっこ抜く必要がある。  その獲物をバラさないよう、ミオがそろりそろりと竿を上げると、小さな餌木のカンナに足を引っ掛け、宙ぶらりんになったヒイカがその姿を見せた。

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