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33.夜のデートはイカ尽くし(14)
「……お、見てごらん。ちょっと大きなイカが寄って来たぞ」
「ほんとだー、ボクが釣ったのよりおっきいね。エサだと思って来たのかな?」
「きっとそうだね。このイカを釣って、二人でおいしいバター炒めを食べような」
「うん!」
ヒイカ釣り体験を始めておよそ十数分の間、竿をしゃくり続ける努力が実り、ようやく一匹のヒイカが餌木に興味を示してやってきたのだ。このチャンスを逃す手はない。
ミオは俺の隣で手を組み、お祈りするような仕草を見せている。
こんなに一生懸命応援されて獲物を逃したらかっこ悪いし、何よりガッカリさせちゃう事になるからな、ここは慎重に行こう。
徐々に近寄ってきたヒイカのために、俺は餌木の動きを少し緩め、抱きつきやすくなるように工夫をする。
こういうのは、澄んだ水の中で泳ぐイカを目視で確認できる状況だからこそのテクニックだ。
今やっているのは、いわゆる〝サイトフィッシング〟に分類されるのだが、基本的に、サビキなどは別として「見える魚は釣れない」と言われる。
だが、生簀で泳ぐヒイカがエサに興味がないかというと、決してそうではないはずだ。
自分の直感と腕を信じ、竿を動かし続けていると、大きめなヒイカはようやく餌木を抱き込み、カンナに足を引っ掛けた。
ここまで来れば、もう勝ったも同然。あとは手返しでイカを釣り上げるだけだ。
「よし、釣れた!」
「やったぁ。お兄ちゃん、すごーい!」
カンナに足を取られたヒイカは頭を下にした状態でぶら下がっており、もはやこれまでと観念したのか、スミを吐く様子も見せなかった。
尖ったカンナで客の手をケガさせるわけにはいかないという理由もあり、ヒイカを仕掛けから外すのは店員さんにお任せ。
そうやって、無事に桶に入れられたヒイカ二杯は厨房まで運んでもらう事になった。
おいしくなって帰って来いよー。
「ごめんなミオ、イカを釣り上げるのに時間がかかっちゃったよ」
「んーん、いいの。イカ釣りをしてるお兄ちゃん、すごくかっこよかったよ!」
ミオは周りの目も気にせず、勢いよく俺の胸に飛び込み、顔をうずめるように抱きついてきた。
そんなミオの頭をなでなでしていると、まるで彼女とイチャついているみたいな気分になり、優越感でついつい顔がにやけてしまう。
「かっこよかった」かぁ。なかなか釣れなくて、もたもたしているように映ったんじゃないかと心配していたんだが、そう言ってもらえると嬉しいよ。
これで少しは、お兄ちゃん、いや彼氏として、男らしいところを見せられたかな。
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