278 / 832
34.実食、イカ料理(6)
「あ! これ、そんなに塩辛くないよー。口の中で、お茶のすごくいい匂いがするの」
「天ぷらに合いそう?」
「うん。ボク、天つゆよりも、このお塩で食べる方が好きかも」
「そっかそっか、抹茶塩の良さが分かっちゃったか。ミオもこれで、大人の階段をまた一段上ったわけだな」
「ん? どゆこと?」
「ミオがちょっとだけ大人に近づいたって事さ」
「そうなの? じゃあボク、今からお兄ちゃんのお嫁さんになれる?」
「え! い、いや、それはもうちょっと先の話かなぁ」
「……むー。いいもん、じゃあ来年の誕生日まで待つもん」
ミオはそう言って、再び耳心地のいいサクサク音を立てながら、アオリイカの天ぷらを食べ始めた。
もうミオの中では、自分の次の誕生日に、俺と結婚するってのが決定事項になっているようだ。
まいったなぁ、ミオがお嫁さんになりたいって言ってくれるのは嬉しいんだけど、来年、こんなに幼いショタっ娘と年の差婚しちゃったら、果たして誰に何を言われるやら。
お盆にはこの子を連れて実家に帰省するつもりなんだが、ミオの事を親父とお袋に、果たしてどう紹介すればいいのか……。
「お待たせいたしました。こちら、ヒイカのバター炒めになります」
来たる盆休みの事で頭を悩ませていると、店員さんが、作りたてでホクホクなバター炒めを届けに来た。
「わー、すごくいい匂いがするね、お兄ちゃん」
「うん、確かにいい匂いだ。たぶんこれは、バターと醤油をからめて炒めたんだろうな」
「でも、ボクたちが釣ったヒイカって、こんなに小さかったかな?」
ミオは輪切りにされ、皿に盛られたヒイカを眺めながら、そのサイズに疑問を抱く。
「うろ覚えだけど、イカは熱が加わると、身が縮むって聞いたことがあるから、きっとそれなんだよ」
「なるほどー」
「ところでこのバター炒め、結構ボリュームあるな。イカ以外に何を使ってるんだろう?」
バター炒めに使われている、ヒイカ以外の食材の正体が分からない俺は、ざく切りされた野菜らしきものを、さまざまな角度から眺めてみた。
ひょっとしてカブを使っているんだろうか?
でもカブは夏が旬の野菜じゃないしなぁ、やっぱり違うかな。
「すんすん……これ、ジャガイモだよ。お兄ちゃん」
うちの子猫ちゃんは、お得意の嗅覚を駆使して、ヒイカ以外に用いられた食材を言い当てる。
「そっか、ジャガイモかぁ。という事は、じゃがバターとしても楽しめるってわけだな」
「じゃがバター?」
「居酒屋とかで出される定番メニューだよ。蒸かしたジャガイモにバターを塗って食べるんだ」
「へぇ、そんなのがあるんだね」
「きっとこれもいい味出してると思うよ。て事で、せっかく作りたてが来たんだし、温かいうちに食べちゃおっか」
「うん! ボクもじゃがバター食べるー」
ともだちにシェアしよう!