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34.実食、イカ料理(9)
「イカモナカ、冷たくておいしーい」
「モナカの部分を持って食べれば手も汚れないし、よく考えられたスイーツだよなぁ」
「ボク、つぶあん大好きだから嬉しいよー」
「そうなんだ。じゃあ饅頭 とかの和菓子も好き?」
「うん。だーい好き!」
そう答えるミオの笑顔はとても眩しかった。
うちの子猫ちゃんは洋菓子だけじゃなくて、和菓子も好きなのかぁ。それじゃ今度は会社帰りのおみやげに、和のスイーツを選んで買ってきてあげようかな。
「ふぅー、ごちそうさまでした! あんなにお腹いっぱいだったのに、イカモナカ、もう全部食べちゃった」
「はは、甘いものは別腹だって言うしな。ミオが喜んでくれてよかったよ」
「イカ料理、すごくおいしかったよー。お兄ちゃん、今日はありがとね」
「いいんだよ、お礼なんて。俺たち親子だろ?」
「うん、そだね」
「それとも、恋人同士だから、の方が良かった?」
「……そっちの方がいい」
〝恋人〟というフレーズを意識したのであろうミオは、ほんのりと頬を紅く染め、上目遣いではにかんでみせた。
うーん、かわいい。これはもう完全に、恋する乙女の瞳だよ。
そんなミオの反応にときめいてしまった俺も、やっぱりミオに恋しちゃってるんだろうな。
でも、ほんとにいいのかなぁ。俺みたいな三十路も見えてきた男が、まだ十歳ちょっとのショタっ娘と付き合うだなんて。
会社の同僚や実家にいる親には、養育里親として迎え入れた我が子、という説明をしているんだが、ミオは俺のお嫁さんになる気まんまんだし。
もっとも、そんな結婚願望の強いミオを娶 ると約束をしたのは、誰あろう俺なのだから、いつかはその約束を果たさなければならないだろう。
その日が来た時に、みんなが俺たちを祝福してくれるといいんだけど。
……と、ここで先の事を考えていても仕方がない。とにかく今は、二人の一分一秒を大切にしよう。
その一環として、今日のデートでは、イカ料理を堪能した後にも、とある場所へ赴くプランを密かに立てていたのだ。
「ミオ」
「なぁに? お兄ちゃん」
「お店を出たら、ちょっと寄り道をしてから帰ろっか」
「寄り道?」
「そ。ここへ来る途中、カーナビで調べてみたんだけどさ、海の近くに見晴らしのいいところがあるみたいんだ」
「ふんふん」
「きっとミオも気に入ると思うから、よかったら一緒に行こうよ」
「うん! お兄ちゃんが連れてってくれるところだから、ボク、楽しみにしてるー」
イカ料理のフルコースを余すことなく味わい、腹も心も満たされた俺たちは、会計を済ませた後、次の目的地である海浜公園へと向かう事にした。
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