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34.実食、イカ料理(11)
「ミオ、見てごらん。向こう岸の山に、たくさん電気が点いてるよ」
「ほんとだー。でも、あれって何の光なんだろ?」
「ネットで調べてみるか。……えーと、ここから見える山にあるのは、どうやら養鶏場らしいね」
「養鶏場って、ニワトリがたくさんいるとこ?」
「そう、その養鶏場。あの電気はきっと、ニワトリを飼う建物の中と、敷地を照らしているんだよ」
「なるほどー。ピカピカして綺麗だから見とれちゃうな……」
ミオはそう呟 くと、俺の肩に頭を預け、うっとりとした表情を見せる。
今、俺たちが対岸にある山の中腹で見ているのは、ごく普通の養鶏場の明かりである。
でも、こうやって二人きりで座っていると、俺たちのために電飾でライトアップしてくれているように見えて、ロマンチックな感じがするのだ。
ふと、周りに目をやってみると、俺たちの他にも、ベンチに座り、海と山の景色を楽しんでいるカップルの姿が見られる。
ほのかな匂いの潮風が漂い、向こう岸で養鶏場の明かりがくっきりと見えるこの場所は、彼氏、彼女を持つ人たちにとって、愛を語らい合うには絶好のポイントとなっているのだろう。
俺たちは食後の腹ごなしも兼ねてここに来たんだが、ミオも喜んでくれたようでよかった。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「何だい?」
「イカ料理、すっごくおいしかったね」
「そうだな。初めて行ったお店だからちょっと心配だったけど、全部うまかったね」
「お兄ちゃんは何が一番好きだったの?」
「俺? そうだなぁ、やっぱりぽっぽ焼きかな。甘辛くて香ばしくて、懐かしさもあってさ。子供のころを思い出したよ」
「それって、お祭りに行った時のお話だよね」
「そうそう。あとはイカ飯もよかったな。大きさはそれほどでもなかったけど、煮汁がもち米にしみ込んでて、すごくいい味出してたなぁ」
ミオが笑顔でうんうんと頷く。
そういやあのお店に行くきっかけになったのは、ミオが大きなイカでイカ飯を作る、というテレビ番組の企画を見たからなんだよな。
だからこの子にとっても、きっとイカ飯は思い入れの強い料理として印象に残ったのだろう。
「ミオはどれが一番だったの?」
「ボクは全部好きだったけど、一番はバター炒めかなぁ」
「バター炒め?」
この答えは意外だったな。
俺はてっきり、イカフェスタの目玉であるアオリイカの天ぷらあたりが出てくるかと思っていたんだが、最後に追加した一品が挙がってくるとは。
「うん。お兄ちゃんと一緒にイカ釣りできたでしょ? あれがすごく楽しかったの」
なるほど。料理を作るにあたって、用意するイカを俺たちの手で釣り上げたからこそ、喜びや味わいもひとしおだったという事かな。
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