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34.実食、イカ料理(12)

「おっきなイカを釣ったお兄ちゃん、すごくかっこよかったよ!」 「ははは。ヒイカだから結局手のひらサイズだったけどね。……でもそう言ってくれて嬉しいよ」 「んー。ボク、ほんとにかっこいいって思ってるんだからね。信じてくれてる?」 「ああ、もちろんだよ。ありがとな」  俺はそう答えると同時に、ミオの肩へ腕を回し、そっと抱き寄せた。  ヘタに言葉を並べるよりも、行動で示す方が、ミオへの感謝が伝わりやすい。  不器用な俺はそう思ったのである。  その思惑が通じたのか、ラブラブスイッチがオンになったミオは、俺の肩に頬をこすりつけて甘え出した。  かわいいなぁ、もう。  いつもの事ながら、ミオの甘えっぷりにはキュンとさせられちゃうよ。 「お兄ちゃん」 「ん?」 「今日のデート、すごく楽しかったよ。連れて来てくれてありがとね」 「うん。また、イカ料理を食べたくなったらお店に行こうな」  ミオは静かに頷くと、再び俺の腕の中で頬ずりし始めた。  今の俺たちは親子であり、かつ、彼氏彼女の関係でもある。  ミオは男の子だけど、俺のお嫁さんになりたいという願望を持っているからには、自分が彼女だという自覚はあるのだろう。  だからこそ、エスコート役の彼氏である俺に感謝の気持ちを伝えてくれたのだと思うのだが、どこか気を遣わせてしまっているような印象も受けるのである。  俺の考えすぎかなぁ。  以前付き合っていた元カノが全く遠慮のない性格だっただけに、正反対なミオと家で一緒にいたり、デートに出かけたりすると、慎み深さが一層際立つんだよな。  もっとも、お嫁さんにするなら比べるまでもなく、慎み深いミオの方なんだけど。  そんなお嫁さん候補であるミオのために、明日の日曜日は、夏祭りへ行く際に着る浴衣を買ってあげるつもりだ。  もちろん本人の希望が最優先なんだが、俺としては、女の子にも負けず劣らずな美貌を持つミオに似合う、とびっきりかわいい浴衣を着てもらいたいなぁ。  例えば、ショタっ娘でも似合うような、女の子用の浴衣を着てもらうとか。  これってコスプレに該当するだろうか?  そう考えると、あらゆる妄想が頭をもたげてきて、ついつい顔がにやけてしまいそうなんだが、こういうのこそ彼氏ならではの特権だよな。  明日のお買い物デートは、そんな特権をフルに活用して、めいっぱい楽しませてもらう事にしよう。 「どうしたの? お兄ちゃん」 「え?」 「さっきからずっとニコニコしてるー」  うかつだった! 明日の事を妄想していたら、ほんとに顔がにやけてしまっていたらしい。 「ね。何を考えてたの?」 「いやその、ちょっとお祭りの事をさ」 「お祭り?」 「そう。八月になったら、一緒に行こうってお話しただろ?」 「うん」 「そのお祭りに行く時に着ていく、定番の服があるんだよ。それの事を考えてたの」 「服の事でニコニコしてたの?」  ミオが不思議そうな顔で聞き返す。  そりゃあ、そういう反応になるよな。ミオは生まれてこの方、一度たりともお祭りに行った事がないんだから、浴衣の存在も当然知らない。  だからこそ、俺がミオにかわいい浴衣を着せてほっこりした気分になろうと目論んでいる事にも気づかないのだろう。 「まぁあれだよ。詳しい話は、家に帰ってからのお楽しみって事で」 「そうなんだ。じゃ、早くお家に帰ろ!」 「いいの? もっと甘えなくても」 「うん。残りはお家でいっぱい甘えるのー」 「そっか。ふふ、ミオにはかなわないなぁ」  なんて余裕を見せつつも、その言葉を聞いて心の中で喜んでいるのは、誰あろう、キュートなミオにすっかり惹かれてしまったショタコンの俺なんだけどね。

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