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35.夏祭りに備えて(1)
イカ料理を食べるためにお店へと出かけ、外食デートをしたその翌日。
今日は日曜日だから、仕事はお休みだ。
一人暮らしをしていた頃は、こういう休日が訪れると、たいてい昼まで寝ていたものだが、今はミオがいる。
ミオは夏休みに突入すると、早朝のラジオ体操から帰って来るなり、寝室で寝ている俺を起こしに来てくれるのだ。
ただ、平日の業務で疲労が溜まっている俺は、一人暮らし時代のクセが抜けず、目覚まし時計のスイッチを入れずに眠りにつくので、休日の寝覚めはそんなに良くないのである。
「おはようお兄ちゃん! 朝だよー」
「んー」
「あれ? もう起きてるの?」
ミオらしき子供の声は耳に届いているのだが、まだ脳が目覚めきっていないらしく、誰が何を言っているのかまでは聞き取れない。
もっとも、うちにいる子供といえばミオしかいないのだけれど、寝ぼけていると、そんな当たり前の事すら忘れてしまうのである。
「ぐぅ」
「あー。やっぱりまだ寝てるー」
耳に心地よいソプラノボイスが止んだかと思うと、今度は、俺の上にかかっていた大判のタオルケットがもぞもぞと揺れる。
一体何が起きているのだろう。ひょっとして、誰かがベッドに潜り込んできたのか?
だとすると、その正体は――。
「おーにーいーちゃーん」
「……わっ!」
今度は何事かと、俺は再び声のする方へ振り向き、重いまぶたをこじ開ける。
すると、爽やかなブルーのショートヘアと、特徴的な長いまつ毛を持つショタっ娘が、俺に密着するくらいの近さで横になっていた。
「ミ、ミオ?」
「起きた? お兄ちゃん」
「うん、おはようミオ。それでそのー、ちょっとばかり、近いんじゃないかな」
「ん? 何が近いの?」
「いや、何というか、顔がさぁ」
「そうかなー。ボクがお兄ちゃんを起こしに行く時、いつもこんな感じだと思うよ」
「でも、今日は特に近いような。もうほんとに目の前じゃん」
「えへへ。お兄ちゃんの顔、かっこいいからずーっと近くで見てたくなるの」
ミオはそう答えると、舌をペロッと出してはにかんでみせた。
「はは……そう言ってくれるのはミオだけだよ。ありがとな」
嬉しさと照れくささの感情が一緒くたになり、急激にミオの事を意識してしまった俺は、胸のドキドキを悟られないよう、平静を装いながら返事をする。
かたや、無邪気なミオはお互いの唇が触れ合いそうな距離のまま、今しがた目覚めたばかりの俺を笑顔で見つめてくるのであった。
俺がちょっとでも顔を動かすとキスしてしまいそうなくらい近いのに、この子は何とも思わないのかな。
俺がそんな事をする男ではないと安心しきっているのか、あるいは、キスされても構わないくらい、心を許している証なのか……。
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