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35.夏祭りに備えて(2)
いや、この場合はたぶん両方だろうな。
縁結びの神社へお参りに行った際、俺のお嫁さんになりたいとお願いしたほど俺の事が好きなミオだけど、さすがに、このシチュエーションでキスはしてこないと踏んでいるのだ。
今のミオは、単純に俺の顔を近くで見たいと思って、そのついでに起こしに来ただけなんだから、ベッドの上でキスをしたいという欲求なんて、きっと頭の片隅にも無いだろう。
ふぅ、危ない危ない。もう少しで、空気の読めない勘違いを起こしてしまうところだったよ。
「お兄ちゃん。ボク、今日もラジオ体操に行ってきたよ!」
「うんうん、お疲れさま。ミオは毎日ちゃんと起きられて偉いなぁ」
「ね、お兄ちゃん、もっと寝てたかった?」
「ん? うーん。まぁ確かなのは、ミオが起こしに来なかったら、俺、たぶんお昼くらいまで寝てたかも知れないって事だな」
「そんなに眠たかったんだ。お兄ちゃん、もしかして、昨日のデートで疲れちゃったの?」
ベッドで横になり、唇が触れそうなくらい密着しているミオは、笑顔から一転して、心配そうな表情を見せる。
自分が起こしに来たせいで、大好きなお兄ちゃんの快眠を邪魔してしまったのではないかという、罪悪感に苛 まれているのだろうか。
「はは。デートで疲れたんじゃないよ。むしろ、ミオと一緒に楽しい時間を過ごせてリフレッシュできたくらいさ」
「りふれっしゅ?」
「そう。毎日、会社に行く途中の満員電車で立ちっぱなしになったりとか、仕事で頭を使いすぎたりして疲れてたのを、あのデートで全部スッキリ回復させてくれたんだよ」
「ほんと?」
「ほんとだよ。だから、ミオは何も気にしなくっていいんだからね」
「うん。お兄ちゃん……ありがと」
俺の言葉から何かを感じ取ったのか、ミオは目を潤ませ、頭を撫でようと差し伸べた手をぎゅっと握り、いつものように頬ずりして甘え始めた。
はぁ。やっぱりうちの子猫ちゃんは世界で一番かわいい。
正直な話をすると、昨日のイカ料理デートで、俺が全く疲れていないかと言うと嘘になる。
お店への道を間違えないように車を運転したり、慣れないイカ釣り体験でやきもきさせられたりするのは、それなりに疲れた。
ただ、日がな神経をすり減らして仕事に励む事と、かわいい我が子と一緒に甘い時を過ごすのでは、疲労の度合いに天と地ほどの差があるのだ。
何より昨日の外食デートでは、喜んだり、楽しそうにしたりしているミオの笑顔がたくさん見られたのだから、どちらかと言うと、癒された部分の方が大きい。
その気持ちを嘘偽りなく、正直に伝えたつもりなんだが、ミオは素直に受け止めてくれただろうか。
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