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35.夏祭りに備えて(8)

    *  朝飯を食べ終え、朝のテレビアニメを一緒に見たあと、俺たちは外出の準備を始めた。  ファッションセンスがほぼ皆無な俺は、いつものラフな服装で決まり。  かわいいもの好きなミオは、直射日光防止のためのフリンジハットを被り、下には早朝のラジオ体操の時にも使っているショートパンツを着用した。  ミオの夏服はいつ見ても露出が多くてドキドキするんだが、デパートのある隣町はここよりも都会なので、ミオと同じくらい薄着をしている女の子は、きっとたくさんいるんだろうな。  俺たちが着替えを終えた現在の時刻は、午前十時ちょっと前だ。  今から車に乗って隣町の駅前に向かえば、デパートの開店直後くらいには着くだろう。  別に特売品やセール品を買いに行くわけではないので、開店前に並ぶほど急ぐ必要もない。  何より、俺たちは行列というものが大の苦手なのだ。  なので今日は、特に時間は意識せず、マイペースかつ安全運転に徹する事にした。  ミオをいつもどおり助手席に座らせ、カーラジオを流しながら、デパートの近隣にある有料駐車場を目指す。 「ねぇお兄ちゃん」 「ん? 何かな」 「デパートってなーに?」 「え。もしかしてミオ、デパートにも行った事が無いの?」  いかん。驚きのあまり、ついついデリカシーのない聞き返し方をしてしまった。 「うん。ボク、あの施設にいた時は、あんまりお出かけしなかったんだー」 「それは、施設の取り決めで禁止されてたとか?」 「それもあるかな。とにかく一人で遠いとこに行っちゃダメだって言われてたから」  まぁ、分からないでもない話だ。  まだ十歳の幼いショタっ娘が、一人で遠出して、万が一迷子にでもなったら大事(おおごと)だろうから。 「なるほどな。んで、『それもある』って事は、他にも行けなかった理由があるのかい?」 「んーとね。ボクたちみたいな子供って、遠足にだけは連れてってもらえるんだけど、行くとこは街じゃなくて山ばっかりだったんだよー」

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