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35.夏祭りに備えて(9)

「そうなんだ。山にはデパートなんて無いから、そりゃ知らないのも無理ないよなぁ」 「うん。だから教えて!」 「まぁ何だ。平たく言うと、デパートってのは、大きな建物の中に、いろんなお店がたくさん詰まってるんだよ」 「例えばどんなお店?」 「例えば、一階だったら化粧品店だろ。んで上に行くと、洋服店や雑貨店、あとはレストランなんかもある」 「ふんふん」 「それから、本屋さんとか、全国各地の名産品が買える催しもやってたりするな。んで、子供に人気なのは、やっぱりおもちゃ売り場だよなぁ」 「おもちゃ売り場って、積み木も売ってる?」  この発言はちょっと驚きだ。現代っ子が、よく積み木の事を知っているな。  もっとも、ミオがいた児童養護施設だと、知育のために積み木を置いていたからとか、そういう理由で知っているんだと思うけど。 「積み木以外にもいろいろあるよ。あとで寄ってみるかい?」 「えっと、行ってみたいけど……いいの?」 「もちろん構わないよ。デパートってのは、たくさんあるお店の商品を眺めて楽しむところでもあるんだからね。せっかくだから、昼飯もそこで食べていこうよ」 「うん、ありがとうお兄ちゃん。すごく楽しみー」  まだ見ぬデパートのお店巡りがよほど楽しみなのか、ミオは、床に届かない足をパタパタさせ、期待に胸を膨らませている様子である。  当初は浴衣を買ってそそくさと帰るだけのつもりだったが、事情が分かると話は別だ。  なので今日は、ミオの社会勉強という意味合いも含めて、デパートのお店めぐりをする事に決めた。  ミオが楽しんでくれそうなところを回るとしたら、やはりさっき行こうと約束した、おもちゃ売り場は絶対外せないよな。  ゲームはともかくとして、大好きなアニメのグッズを見たら、たぶんミオもおもちゃに興味を持つと思うんだ。  それからレストラン街に、屋上の遊園地だろ。あとは地下のグルメコーナーかなぁ。  デパ地下でうまいものを買って帰って、今日の晩飯のおかずにするのもいいだろう。  俺もデパートに行くのは数年ぶりになる事だし、せっかくだから、童心に帰って目一杯楽しむ事にしよう。  唯一心配なのは、今から行くデパートに、ミオが気に入ってくれるような浴衣を置いてあるかどうかなんだが、こればっかりは店のセンスだよなぁ。  花も恥じらうほどのショタっ娘に似合う、可憐で素敵な浴衣が、どうか見つかりますように。

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