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36.初めてのデパート(6)

「えっと。ミオには佐藤の事、何度か話したから知ってるよな」 「うん。佐藤さんって、リゾートホテルの予約を譲ってくれた人なんだよね」 「そうそう。その佐藤さんだよ」 「……なぁ柚月」  リゾートホテルというフレーズが出た途端、佐藤が突然、ミオには聞こえないような小声でささやきかけてきた。 「な、何だよ突然」 「ミオちゃんが予約の件を知ってるって事は、お前、この子に、オレがユキちゃんにフラれた話もしたんか?」 「いーや、してないよ。多忙で行けなくなったからって事にしといたから」 「おお、そうか。何や気ぃ遣わせてすまんな」  自分のメンツが守られた事で安心したのか、佐藤がホッと胸を撫で下ろす。  さすがに女性経験が豊富でフラれ慣れしている佐藤とはいえ、ユキちゃんとの一件を俺以外の人間に知られるのは、心の傷をえぐられるような思いがして嫌なのだろう。 「あのぉ。佐藤さん」 「ふ、ふぁい! 何でっしゃろ」  ミオに話しかけられるのがよほど予想外だったのか、佐藤はしどろもどろな様子で返事をする。  佐藤の奴、もしかして、ミオの事までも恋愛対象として意識してるんじゃないだろうか。  だとしたらこいつはとんだロリコン、もとい、ショタコン野郎だ。  うちのミオに手を出す事だけは、里親であり、彼氏でもある俺が絶対に許さないんだからな。 「ボクが選んだカボカボちゃん人形、気に入ってくれましたか?」 「へ? カボカボちゃん人形?」  あ、これはまずい。  佐藤の奴、先日渡したばかりの、ミオが一生懸命選んでくれたおみやげの事を、綺麗サッパリ忘れているらしい。  ミオに感想を聞かれた佐藤が、頭にハテナマークが浮かんでいそうな、呆《ほう》けた顔をしているのが、何よりの証拠だ。  佐藤めー。歴代付き合ってきた女の子の情報はしっかりと覚えているくせに、こういう事はすぐ忘れるんだから、大した記憶力だよ。  一方のミオとしては、俺が佐藤の適当なコメントのフォローをしたのを何となく察していたからこそ、本人の口から直接感想を聞きたいと思ったのだろう。  とにかく、佐藤のためを考えておみやげを選んでくれたミオを悲しませないためにも、ここは俺が再度フォローに入るしかない。 「ああ、あれの事かー! 佐藤、もちろん覚えてるよな!」 「え? え?」 「俺が佐貴沖島《さきのおきしま》のリゾートホテルから帰ってきて出社した日、ミオからのおみやげとして渡した、かぼすをモチーフにしたぬいぐるみ、カボカボちゃん人形の事だよ。も・ち・ろ・ん、覚えてるよな」 「……あ、ああ、あのぬいぐるみかいな! そらもう、しっかりと覚えとるがな」

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