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36.初めてのデパート(7)

 俺の「これでもか」というくらいの説明口調に加え、眼光鋭く詰め寄った事で、さすがの佐藤もたじろぎながら返事をする。 「えーと、せやなぁ。あれはメチャかわいい、かぼすのぬいぐるみやったな。うん」 「ほうほう。それで?」  俺は佐藤にアイコンタクトを送り、さらなるコメントを促す。  ぬいぐるみの外見について語るのはさっきのでいいのだが、今ミオが聞いているのは、自分が選んだおみやげを気に入ってくれたかどうかであるため、まだもう一言必要なのだ。 「もちろん気に入ったで。カボカボちゃん人形、今はオレの家族も同然や。ホンマありがとな、ミオちゃん」 「いえ……それなら良かったです」  佐藤からの好評を聞いて安心したのか、さっきまで硬くなっていたミオが、一転して柔和な笑顔を見せる。  今のナイスなコメントは、男女分け隔てなく、しっかりと気配りが出来る佐藤の本領発揮といったところだ。  出来ることなら、お前におみやげを渡したあの日に、お世辞でもいいから、そういう気の利いた言葉を残しておいて欲しかったんだけどな。 「ほんで、話は戻るけど。ミオちゃんに着せてあげる浴衣は見つかったんか?」 「いや、それが全く。この階の、どこを探しても呉服店が無いんだよ」 「さよけ。まぁ紳士服売り場や言うても、ここは洋服がメインやさかいな」 「佐藤。ダメ元で聞くけど、浴衣を売ってる店がどこにあるか知らないか?」 「オレが知っとるわけないやろ。そういうピンポイントな情報は、デパートの全売り場を把握しとる人に聞くもんや」 「そんな人いるの?」 「柚月。情報通っちゅうんは、どこにでもおるんやで。まずはその人を探してみることやな」  情報通か。例えば、毎日デパート通いしている買い物客に尋ねてみるとか?  でもそんな人、どうやって見分ければいいんだろう。パッと見じゃあ、絶対分からないよな。 「デパートっちゅうのは何でも置いてあるのがエエとこなんやで、根気よく探せば見つかるやろ。特に夏場の浴衣は、多少値が張っても売れる人気商品なんやから、置かんわけがあらへん」 「だといいんだけど……」 「柚月、お前がそんな弱気でどないすんのや。そもそも、浴衣売ってるんを期待してここまで来たんやろ」 「う。そ、それは」  うっかり言葉に詰まってしまったが、なるほど、まさしく佐藤の言う通りである。  俺はかわいいミオのため、浴衣を買うと決めてこのデパートへ来たというのに、たったワンフロアを見て回って成果が無かっただけで、マイナス思考に陥りかけていたのだ。  そんな体たらくでは、一緒に来てくれたミオにまで不安な気持ちにさせてしまう。こんな時だからこそ、ポジティブシンキングで浴衣探しを続けなくては。

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