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36.初めてのデパート(9)

    *  四階、紳士服売り場の片隅にある、休憩用の木製ベンチ。  そこに腰掛けて一息ついていると、ミオが俺の顔を見上げながら、残念そうな笑みを浮かべた。 「着物のお店、なかったね」 「うう。ごめんなミオ」 「え? どうしてお兄ちゃんが謝るの?」 「いや、最初にここのフロアガイドでさ、俺がそれらしい名前のお店があるかどうか調べときゃ、ムダ足にならなくて済んだかなぁって」 「んー。でも、いろんな服を置いてるお店がこんなにたくさんあるんだもん。名前だけ見ても分かんないかも知れなかったでしょ?」 「まぁ、それはそうかもだけどさ」 「ね。ボクは、お兄ちゃんと一緒にお店を見て回れただけでも楽しかったんだよ! だから気にしないでー」 「ミオ……」  ああ、何て心優しい子なんだ。  俺がノープランでここへ連れて来た事を責めるどころか、楽しかったとまで言ってくれるだなんて。  よし! 天使のようなショタっ娘ちゃんの優しさに報いるために、何が何でも、このデパートでミオに似合う浴衣を見つけ出してやる。  これだけ大きなデパートで、かつ、夏真っ盛りの今、子供用の浴衣を一着も置いていないなんて、まずあり得ないのだから。  とは言っても、ヤマ勘で適当にフロア巡りをしていては、また徒労に終わるおそれがある。  頭を使うんだ、義弘(よしひろ)。  こういう時、どこに何が置いてあるかを正確に知るために、いかな手段があるのかを。  ん? そういや、さっき佐藤の奴が何か言っていたな。確か、デパートには、各売り場に詳しい情報通がいると。  ひょっとして、その情報通の正体とは――。 「そうか! インフォメーションカウンターに行けばいいんだ」 「え? ?」  よほど俺の発音が悪かったのか、よく聞き取れなかったのかは分からないが、ミオは首を横に傾けながら、横文字のキーワードを若干間違えて聞き返してくる。 「インフォメーション、カウンターね。分かりやすく言うと、デパートとかで案内係をしている人がいるところだよ」 「あ! 分かった。そこで浴衣を売っている場所を聞くんでしょ?」 「そう。インフォメーションのお姉さんなら、全部の階で売っているものが分かるだろうから、きっと浴衣の事も知っているはずさ」 「でも、そのインフォメーション何とかってどこにあるの?」 「えっと、たぶん一階だと思うんだ。ああいうのって、デパートに入ってすぐのところに設置するのが一般的だからね」 「そうなんだ。ボク、全然気付かなかったなぁ」  ミオが頭の後ろで両手を組み、何かを思い出そうとするかのように、視線を斜め上に動かす。

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