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36.初めてのデパート(11)

 ミオのエスカレーター初体験が終わり、一階へと戻ってきた俺たちは、近くの柱に掲示されていたフロアガイドを再度チェックする。  今度探すのは、浴衣売り場がどこにあるのかを知っているであろう、インフォメーションカウンターの場所だ。 「んー。相変わらず、化粧品とか婦人向け雑貨店の名前ばっかりだな」  お店が多いから番号を割り振って、下に店名を書くのは分かる。  だけど、さすがにインフォメーションカウンターにまで番号をつけちゃうのはどうなんだよ?  おかげで探しにくいったらありゃしない。 「ねぇお兄ちゃん。ボクたち、今ここにいるんでしょ?」  そう言って、ミオが〝現在地〟と書かれている場所を指差す。 「まぁ、現在地だからそういう事だね」 「でね、いんふぉめーしょん何とかって、ここからずーっと右に進んで、壁に突き当たったとこを左に曲がればあるみたいだよ」 「え。ミオ、インフォメーションの場所分かっちゃったの?」 「うん。ボク、こういうの得意なんだー」  と、ミオがニコニコしながら答える。いやぁ、これは意外な才能だな。  多数あるお店などに割り振られた番号と名前を見比べ、インフォメーションの場所を探し当てただけならまだしも、現在地からどう進めば最短で着くのかまでを割り出しているのだから。  瞬時にこういう芸当ができるのも、俺みたいな大人と違って、頭が柔らかい子供だからこそなんだろうなぁ。  ミオが今しがた割り出したコースに従って歩いていくと、大きな出入り口の横に、英語でインフォメーションと書かれたスペースが見えてきた。  幅広く、高級感にあふれるカウンターに詰めている二人の女性は、華やかな制服と帽子を身につけ、訪れた客に対して笑顔で案内している。  そっか。このデパートは、建物の両側に出入り口を作っていたんだ。  で、反対方向から入店した俺たちは、まっすぐ店内中央のエレベーターに乗ってしまったから、奥にあるインフォメーションの存在に気付けなかったんだな。  いや。仮に気付いていたとしても、まず、お姉さんたちに浴衣の在り処を尋ねるという発想に行き着いてなかっただろう。  デパートで買い物をする時は、まず、目当ての商品がどこにあるのかを教えてもらってから、売り場へ移動すること。  これは鉄則であり、今後の教訓だな。  俺一人ならともかく、今日はミオを連れて来ているのだから、これ以上、退屈な思いをさせるわけにはいかないのだ。 「いらっしゃいませ」 「あの、すみません。ちょっとお伺いしたい事が……」 「はい。わたくし、木下がご用件を承ります」  木下さんか、綺麗なお姉さんだな。  胸にネームプレートを付けていても、わざわざ名乗ってくれた丁寧な接遇には好感が持てる。

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