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36.初めてのデパート(13)
「あ、すみません。ついでというわけでもないんですけど、こちらは大人用の浴衣も売ってますか?」
「はい。大人用でしたら、七階の催し会場、サマー衣料フェスタにて販売中でございます」
「ありがとうございます。お世話になりました」
俺たちは案内のお姉さんに頭を下げ、再びエレベーターに乗ると、まっすぐ六階を目指した。
現在時刻は午前十一時半、ちょっと前。
そろそろお腹がすいてきたので、ミオの浴衣を買ったら、デパート内のレストランで昼飯を食べよう。
*
一階のインフォメーションカウンターにて渡されたフロアガイドを頼りに、俺たちは六階の子供服売り場へとやって来た。
ガイドによると、ここ六階では、ただ子供服だけを取り扱っているわけではなく、おもちゃやゲームなど、子供が喜びそうなものは何でも置いてあるようだ。
ミオにとっても興味を示すグッズはたくさんあるんだろうが、そっちはひとまず置いといて、真っ先に浴衣のある店へ寄って行こう。
「いらっしゃいませー」
若い女性の店員さんが愛想よく出迎えてくれたこの店は、子供服専門店の『キッズ・ヴィドール』という。
フロアの四分の一を占めるほどの店舗の広さもさることながら、その品揃えの豊富さには面食らわされてしまった。
一口に子供服と言っても、産まれたばかりの赤ちゃんから、小学生高学年までの衣料を男女別にズラリと並べてあるため、非常に目移りがしやすいのである。
ここにはミオに着せる浴衣を求めて来たのだが、他にも気に入った洋服や下着なんかがあれば、ついでに買ってあげようかな。
「うわぁ。広いお店だね、お兄ちゃん」
「そうだな。迷子にならないよう、手を繋いで行こっか」
「うん! お兄ちゃんと恋人繋ぎするのー」
「な!? ……ミ、ミオ。一体いつ、そんな繋ぎ方の名前を覚えたんだ?」
「えっとね、一昨日見たお昼のテレビドラマで聞いたの。この手の繋ぎ方、恋人繋ぎって言うんだって」
ミオはにこやかに答えると、柔らかくて、白魚のように細い指を、俺の左手に絡めてぎゅっと握ってみせた。
「それ、どんなドラマだったの?」
「何かね、お嫁さんがお家にいたら、男の人から電話がかかってきて、その人と仲良くなるんだよー」
「男の人って、旦那さんじゃなくて?」
「んーん、違う人。何だっけかなぁ、『お前とヨリを戻したいんだ』とか言ってたよ」
ミオ……それは主婦層向けに放映している昼のメロドラマじゃないか。
夏休み真っ最中の子供は、昼間も家にいる事が多い。
察するに、暇を持て余した平日の昼間にテレビをつけ、何気なくザッピングしていたら、偶然放映されているメロドラマがミオの目に止まったのだろう。
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