307 / 822

36.初めてのデパート(14)

 ミオはまだ、不倫という単語と、その非道徳的な行為について全くの無知だから仕方ない部分もあるのだが、まだ幼い子供に、男女関係のもつれをメインテーマに掲げるあの手のドラマを見続けさせる事が、情操教育としてふさわしくないのは火を見るより明らかだ。  なのでここは、保護者である俺が心を鬼にして、ビシッとしつけなくてはならない場面だろう。 「ミオ。ああいうドラマはさ、子供が見るにはちょっと早いんだよ。今度からは他の、もっと楽しい番組を見てはどうかな」 「んー。そういえばあのドラマ、ボクには面白くは感じなかったけど。もしかして、見ちゃダメなやつだったの?」 「そうだなぁ。あれって最初のうちは普通に話が進むんだけど、そのうち、ミオが嫌がるとかを普通にやっちゃうんだぜ」 「え! 浮気!?」  浮気というフレーズを聞いた途端、ミオが飛び上がりそうな勢いで驚いた。  こういうリアクションを見るに、案の定、ミオはメロドラマが何だか分かってなかったんだな。  もっともメロドラマでは、浮気や不倫の他、ドロドロとした三角関係なんかも描かれるわけだが、それらを一つ一つ解説しているとキリが無い。  なので今回は、ミオが最も敏感になるキーワードの〝浮気〟に絞り込んで説明した。 「浮気がどんなにいけない事か、賢いミオなら分かるだろ?」 「……うん。お兄ちゃんが他の子とくっつくの、やだー」 「はは、俺は浮気はしないよ。でも、テレビ番組だと何をするか分からないからさ。全部が全部、ミオのためになるものじゃないって事だけは覚えておいて欲しいな」 「分かったよー。ボク、もうあの変なドラマは見ないからねっ」 「うんうん。ミオはいい子だ」  そう言ってミオの頭を優しく撫でると、ミオは恍惚の表情で猫なで声を上げ、すりすりと頬をこすりつけて甘えてきた。 「ねぇねぇお兄ちゃん。じゃあ、恋人繋ぎもダメ?」 「恋人繋ぎそのものは悪い事じゃないよ。俺たちは立派な恋人同士なんだから、堂々とやっちゃおう」 「良かった! お兄ちゃん大好きー」  恋人繋ぎについては、ミオは良かれと思ってやってきたのだから、全てを否定するのは教育上正しくないと俺は思う。  だから、こんな感じで落とし所を見い出してあげて、極力叱る事がないように育てていこうというのが、俺の里親という立場としての方針なのである。 「さ。それじゃあ、浴衣を探しに行こっか」 「うん」  メロドラマの一件が片付いた俺たちは、仲睦まじく恋人繋ぎをしながら、改めて、だだっ広い店内で浴衣のありかを探し始めるのであった。

ともだちにシェアしよう!