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37.デパートを満喫しよう!(7)
「ところでミオ。後ろの景色はどんな感じだい?」
「え、後ろ?」
窓側の席に座らせたミオは体をくるりと入れ替え、窓枠にもたれかかるようにして下を覗き込む。
「んとね、歩いてる人がすっごく小さく見えるよー」
「何せ八階からの眺めだからね。ここなら街の見晴らしも格別かなって思って、良さそうな席を選んだんだ」
「なるほどー。でもボクは街より、山の方が好きかなぁ」
「山?」
「そう。ほら、あっちの方に高い山が見えるでしょ? 緑色でとっても綺麗なんだよ」
そう話すミオの目線を追ってみると、はるか遠くに、青々とした木々に包まれた山がそびえていた。
このデパートへ来るまでの車中で聞いた話だと、ミオは児童養護施設にいた時、もっぱら山の方へと遠足に行っていたんだっけ。
天然の緑で溢れる山々には思い入れがあるこの子だからこそ、そちらの方に自然と目が行ったんだろうな。
「あの山、どのくらい高いのかなー」
「そうだなあ。ざっと見た感じだけど、だいたい五百メートルくらいじゃないか?」
「そんなにあるんだ! じゃあ、一番上まで登るのは大変そうだね」
「確かに、歩いて登るのは時間がかかるし疲れもするだろうけど、車ならわりかしすぐだよ」
「車で行けるの?」
「……たぶん」
実を言うと今、俺はミオが見つけた山が何という名前なのか、そして登山ルートが舗装されているかどうか、全く知らないまま返事をしたのである。
あんまり適当こいてぬか喜びさせるのも申し訳無いし、スマートフォンでちょちょいと調べてみるか。
「ミオ。分かったぞ」
「ん? 何が?」
「さっきの山の事さ。ちょっと調べてみたんだけど、あの山、『栄姫姿岳 』っていう名前らしいよ」
「えにしだけ? 山なのにナニナニ山って付かないの?」
「みたいだね。ああいう高くて大きい山には最後に〝岳〟って付ける事があってさ、きっとそういう理由からじゃないかな」
「へぇー。お兄ちゃん、詳しいんだぁ」
俺がちょっとした豆知識を披露すると、純粋なミオは、いつも尊敬のまなざしを向けてくる。
山の呼称に関しては完全な聞きかじりなんだけれど、覚えておいて良かったな。
「で、だ。あの山はちゃんと道が作ってあるから、車でも上まで行けるんだってさ」
「じゃあ、てっぺんまで登れるんだね」
「うん。ここからじゃあ見えないけど、そのてっぺん近くには、展望台とホテルがあるとも書いてあるな」
「ホテルって、こないだボクたちがお泊りしたみたいな?」
「はは。さすがにそこまで大きくはないと思うけど、部屋の窓から望める夜景は、きっと美しいだろうね」
「夜景……どんなんだろ」
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