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37.デパートを満喫しよう!(8)

 ミオがまぶたを閉じて腕を組み、まだ見た事が無いのであろう夜景に思いを馳せている。  この前宿泊したばかりのリゾートホテルからは、セルリアンブルーに輝く海が広がっていたわけだが、色とりどりのネオンが煌めく夜景を見せた事はまだ無い。  昨日行った海浜公園からの夜景でも、見えたのは養鶏場の明かりだけなので、上から見下ろす楽しみというものは経験していないのだ。  これが大人の彼女なら、デートコースのシメで夜景の見える展望台に連れて行って、体を寄せ合いながら愛を語らうんだろうけど、うちのショタっ娘ちゃんはまだ十歳だしなぁ。  あんまり夜遅くまで連れ回すのは子供の教育に良くないから、もし見せるとしたら早めに山登りするか、あるいはホテルの一室から眺めさせてあげるか。  あんまりバタバタしても印象に残りづらいかもだし、夜景をじっくり楽しむなら、やっぱり後者かな。 「ミオ。あの山からの夜景、見せてあげよっか」 「え。ほんと?」 「うん。と言っても、今日すぐにってわけじゃないんだけどさ。とにかく約束するよ」 「ありがとうお兄ちゃん! ボク、いろんなところに連れて行ってもらえて、とっても幸せだよー」  ミオは胸の前で手を合わせると、これ以上ないくらいの眩しい笑みで喜びを表した。  自分の恋人がここまで嬉しそうにしてくれると、彼氏冥利に尽きるよなぁ。  今の恋人は男の子だけど、ミオくらいの美少女顔で愛らしいショタっ娘が彼女だったら、もう性別なんてどうでもよくなるから不思議なもんだ。  こんな事を考えるのは今更だけど、やっぱり俺は、正真正銘、本物のショタコン野郎なのかも知れない。 「お待たせいたしました。こちら、海鮮丼と黒豚の味噌カツ定食になります」  キッチンワゴンに料理を乗せて運んできた店員さんが、二人が頼んだ料理と飲み物をテーブルに並べていく。 「わぁ。海鮮丼、すごくおいしそう!」  お魚が、とりわけ食べる方が大好きなミオは、人生初めての海鮮丼に目を輝かせ、あらゆる角度から具材を眺めている。 「この赤いツブツブがイクラなんだよね?」 「そうだよ。イクラっていうのは要するに、マスとかサケの卵なんだけど」  とまで言って、俺は口をつぐんだ。  イクラが魚卵である事は間違いないんだが、この海鮮丼に使われているイクラが本物なのか、あるいは人工のものなのかが分からない……と言ってしまいそうになったのである。  〝海鮮〟丼と銘打っている以上、花形の具材であるイクラに人工ものを使ってはいないはずだから、わざわざ夢をぶち壊すような話をする必要もないだろう。

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