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37.デパートを満喫しよう!(15)

「ちょっといいかな、理穂さん」  俺は姿勢を正し、勝手に納得している理穂さんの言葉を遮《さえぎ》る。 「ん、どうしたの柚月くん。急に改まって」 「ミオをうちの子に迎えた事についてだけどさ。俺、理穂さんとの一件は関係ないと思ってるんだよ。だから、この話はもう終わりでいいかな?」 「えー、どうして? せっかくまた会ったんだから、もっと話しようよ。柚月くんをフッた後の事とかお喋りしたいじゃん」  いやいや、誰が得するんだよ。その話。 「でも、今はミオと……」 「そっちにいる子は食べるのに夢中みたいだから、いいでしょ?」  今のはさすがにカチンと来た。さっき名前を教えたばかりなのに、またミオの事を「そっちにいる子」扱いして、どういうつもりなんだ。  そもそもミオがご飯を食べる事に集中しているのは、突然ズカズカと割り込んで来た、あなたに対する不満を押し殺しているだけなんだよ!  俺に対して配慮が無いのはまだ許せるけれど、うちのかわいいミオをぞんざいに扱うのならば、こっちにも考えがある。  できればこんな手は使いたくなかったが、これもミオを守るためだから、強い言葉で一気に決めてしまおう。 「理穂さん。ちょっと言いづらいんだけど、要するにこういう話なんだ」 「お、ノッてきたじゃーん。今度は何の話をしてくれるの?」 「じゃあ一言だけ。…… 」 「え?」 「聞こえなかった? Go awayって言ったんだよ」  ミオの視界に入らないような角度で露骨な作り笑いを浮かべ、声にドスを利かせてそう言うと、さすがの理穂さんも、何かを察したらしい。  さっきまで楽しげだった彼女の顔が一変し、みるみる青ざめていく。  初歩的な英語ができる理穂さんだからこそ、言葉の意味が分かったのだろう。要するに俺は、能天気に話を続けたいと言う彼女を「」と突き放したのである。 「あ。あははは、何だかお邪魔しちゃったみたいだね。それじゃ、あ、あたしはもう行くから、元気でねぇ」  隣の席を確保してまで話を続けようとしていた理穂さんはようやく場の空気を読み、そそくさと去っていった。  しかも店外へ。  何もそこまで出て行ってくれとは言っていないんだけど、まぁいいか。

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