334 / 832

37.デパートを満喫しよう!(21)

「大丈夫ですよ。ご準備さえよろしければ、次のゴンドラにご案内しますね」  お姉さんはにこやかな表情でチケットを受け取ると、ウエストバッグにしまい込み、乗り込みの準備を始める。  俺たちが揃って観覧車を見上げると、ちょうど、唯一空席になっている赤いゴンドラが下りてくるところだった。 「ミオ、平気か? 怖くない?」 「うん。お兄ちゃんと一緒に乗れるから楽しみだよー」  ミオは人生初めてとなる観覧車の到着が待ちきれないようで、お昼前に買ったおもちゃの箱を抱きしめたまま、その場で小さく跳ねている。  そういや、俺が初めて遊園地へ行った子供の頃もこんな感じだったなぁ。  さすがにジェットコースターは怖かったけど、高いところから下の景色を眺められる観覧車や、レールの上で乗り物を漕いだりするアトラクションには心が踊ったものだ。  さて、この小型観覧車からは、一体どんな風景が望めるんだろうな。 「お待たせしました! どうぞ乗ってくださーい」  下りてきたゴンドラの扉を開けるお姉さんの案内に従い、まずミオが乗り、俺はその対面へと座った。 「それでは、行ってらっしゃいませぇ」  ゴンドラの扉が閉まり、止まっていた観覧車が再び動き出すと、ミオが窓から下を覗き込む。 「わぁ。浮いてるよ、お兄ちゃん!」 「そうだな。でも、まだまだこんなもんじゃないぞ。一番上まで行けば、周りの景色がよく見えるようになるからね」  それを聞いたミオは視線を上げ、今度は周囲をキョロキョロと見渡し始める。 「あの山って、どっちの方にあるのかな?」 「山? お昼ご飯の時にミオが見てた山の事かい?」 「うん。これだけ高いところからなら、よく見えるかなって思って」  レストランを出て、エレベーターでここまで来て、そして観覧車のゴンドラに乗る。そうすると、今自分たちがどっちの方を向いているのかが、よく分からなくなるんだよなぁ。  方角はおいおい判明するとして、うちのショタっ娘ちゃんが、あの緑生い茂る山をここまで気に入るのは意外だったな。やはり見下ろす夜景に憧れを抱いているのだろうか。  あそこまで登って、ミオに夜景を見せてあげると約束した以上、俺には重大な責任がある。来たる日の登山デートを大成功させるためにも、計画は綿密に練らなくちゃいけないな。

ともだちにシェアしよう!