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38.義弘お兄ちゃんの懸案事項(1)

    * 「お疲れ様でしたー」  係員のお姉さんによって、地上まで下りてきたゴンドラの扉が開けられ、俺たちはわずか数分間の空中遊覧を終えた。 「ミオ、初めての観覧車はどうだった?」 「いろんな景色が見られて楽しかったよー。お兄ちゃんと一緒に写真も撮れたし、ボク、すごく幸せ……」  ミオはそう言い終えると、おもちゃの箱を片手に持ち替え、空いた方の手で俺の腕を抱き、そっと頬を寄せた。  この反応がもう、かわいくてかわいくて仕方がない。  小さな観覧車に乗っただけでここまで喜びを表現してくれるんだから、うちのミオほど、俺の彼女として最適な子もいないだろう。  世間的にネックとなるのは、その彼女であるミオの性別なのだろうが、愛さえあれば、恋人が男女かの違いなんて実に些末(さまつ)な事であって、問題にするまでもない。  どうやら俺は本物のショタコンみたいだし。  さて。せっかく屋上遊園地までやって来たのだから、他の遊具も楽しませてもらおう。  さっき観覧車からフロアを見下ろしたところ、柵で囲まれた一角に、パンダ型の電気自動車が稼働している事が分かった。  ミオはそのパンダさんに興味を示してくれたので、次はそれに乗せるつもりなのである。 「ほら、見てごらん。パンダさんがいっぱいいるよ」  電気の力で動き回るパンダ型自動車を間近で見たミオは、ワクワクするかと思いきや、人差し指を顎に当て、何やら考え事をしだした。 「ねぇお兄ちゃん」 「どうかした? ミオ」 「パンダさん、何だか大きくない? あれなら二人くらい乗れそうだよー」 「え。そうかな?」 「うん。だからー、お兄ちゃんも一緒に乗って遊ぼ?」 「おお、俺も!?」  ミオによる同乗のお誘いによって、パンダさんにまたがる自分の姿を想像した俺は、思わず狼狽(ろうばい)してしまった。  確かに二人分乗れるスペースはあるかもだけどさぁ、三十路近い俺が、子供用の遊具で一緒になってはしゃぐのはまずくないか。  というか、そもそもこれが大人の重量に耐えられる乗り物かどうか、性能からして未知数なわけだし。  そういう疑問が解消されない限りは、やはりミオ一人で乗ってもらうのが無難じゃないかなぁ。

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