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38.義弘お兄ちゃんの懸案事項(3)

「ぶつかったりするの?」 「はは、あくまで念のためだよ。パンダさんはミオが操作した通りに動いてくれるから、ちゃんと前を見て運転すれば大丈夫だって」 「分かったー。ボク、ぶつからないように気をつけるよ」  神妙な面持ちでハンドルを握るミオを微笑ましく見守りながら、俺はコイン投入口にお金を入れた。  ショタっ娘ちゃんにとって人生初めてとなるパンダ型電気自動車、いよいよ発進である。 「お兄ちゃん、最初は真っ直ぐ進んでみるねー」 「うん。ミオに任せたよ」  百円玉を二枚投入されたパンダさんは、ゆっくり前進を始めると同時に、お腹の方からメロディを(かな)で出した。  乗り物が音楽を鳴らすのは、こういう、子供がまたがって楽しむ遊具にはあるあるの機能だよな。  でも、なぜだろう。俺たちが乗っているのはパンダなのに、よりにもよって『メリーさんのひつじ』を流すようにしたのは。  おそらくだけど、ミオくらいの幼い子たちなら、これが何の曲で、いかにパンダとミスマッチであるのかまだ分からないと判断して、適当に選曲したのかも知れないな。  もっとも、『メリーさんのひつじ』自体は、のどかというか牧歌的で優しそうな歌だから、子供をリラックスさせる狙いとしては覿面(てきめん)だとは思うけれども。 「ねぇ。お兄ちゃん」 「ん? どうかした?」 「今流れてる音楽って、羊さんの曲だよね。パンダさんと何か関係があるの?」 「ははは、やっぱり疑問に思うよな」  製造元さん。さすがに十歳のショタっ娘ちゃんには、曲名がバレてるみたいだよ。 「ほら。何と言うか、この音楽には心を落ち着けさせる目的があるんじゃないか?」 「心を?」 「そう。ミオもさっきまで緊張してただろ」 「なるほどー。そういえばボク、音楽が流れてから、ちょっと落ち着いてきたかも」  パンダさんが動き出すまで、ガチガチな様子でハンドルを握っていたミオも、今は後ろを振り向く余裕すらある。  ならば、やっぱり俺が予想した通り、優しい音楽を流す事によって、子供の心に安らぎを与える目的があったのかもなぁ。

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