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39.初めてのペットショップ(5)
犬猫どっちが好きかという話をしているのに、突飛な条件を出されたミオは、現状が理解できずに戸惑うような仕草を見せた。
ちょっとばかり、展開が飛躍しすぎたかな。
さすがに場の空気を凍り付かせ続けるのも何なので、ミオに甘える事の理由を説明しようとした、その瞬間――。
「お兄ちゃん、こんな感じ?」
横で身を低くしていたミオがすっくと立ち上がり、俺の腰あたりに抱きつくと、いつものように頬ずりを始めた。
ああ、やっぱりミオは素直でかわいいなぁ。
自分でやらせておいてこんな感情を抱くのも何だけど、かわいいものはかわいい。
「そうそう、そんな感じ。ほら、甘え方が子猫にそっくりだろ」
「んん?」
ミオは俺に抱きついたまま、首をひねって言葉の意味を考え、しばしの沈黙の後に口を開いた。
「ねぇお兄ちゃん。それって、ボクが子猫にそっくりだから好きってこと?」
「ご明答。よく分かったじゃん」
「うー。好きって言ってくれるのは嬉しいし、ボクもお兄ちゃんが大好きだけど……」
そう言いながら、ミオはほんのり染まった頬を隠すかのように、顔をこすりつけてくる。
「だけど、ワンちゃんと猫ちゃん、どっちが好きかの答えになってないよー」
「はは、そうだっけ。ごめんごめん」
俺としては、「子猫のようなミオが好き。即ち、ミオのような子猫が好き」って言いたかったんだけど、多少遠回しすぎたかな。
これじゃあ、ただイチャついただけになってしまいそうだから、ちゃんと答えよう。
「俺が好きなのは、ほんとに猫ちゃんだよ。近所に猫カフェがあったら、通ってみたいくらいにね」
「猫カフェかぁ。じゃ、近くにワンちゃんカフェがあったら?」
「え」
「ワンちゃんカフェ、通ってみたい?」
「そりゃもう、ぜひとも通いたいね。あの人懐っこさは虜になるからな」
という答えを聞いたミオが、してやったりとばかりにほくそ笑む。
「お兄ちゃん、浮気性なんだねー」
「う!? い、いや、そういう意味で言ったんじゃなくてさ……というか、よく『浮気性』なんて単語を知ってたな」
「えへへ。同級生の女の子たちがね、いつもいろんな恋バナを聞かせてくれるんだよ。だから知ってるの」
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