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40.夏祭りを控えて(1)
自宅マンションの裏にそびえる低山には、大昔に建立された、主に五穀豊穣の神様を祀っている嘉良詰 神社がある。
その神社では毎年八月になると、納涼祭を催すのが恒例行事になっていて、開催日は、八月初めの週の土日のみと定められている。
休日期間内のお祭りという事もあり、毎年その二日間は、敷地内外がたくさんの人でごった返し、大賑わいを見せるのだそうだ。
もちろんその大賑わいには、その日が晴れてさえいれば、という条件が付く。それは即ち、雨天では決行されないという事である。
よって、少しでも雨が降ろうものなら、その時点で催しは中止となり、せっかくのお祭りがお流れになってしまうのだ。
そんな納涼祭の初日を明日に控えた金曜日の夜。俺とミオは、自宅のリビングで作戦会議に当たっていた。
その議題はもちろん、自分たちではどうにもできない天候の事である。
「まいったな。明日からの予報を何度更新しても、傘マークが消えないぞ」
「お兄ちゃん。テレビの天気予報でも、『土日は急な雨が降るおそれがあります』だって」
「そっか。んー、どうにもタイミングが悪いな……」
「ね。せっかくお祭りに行けるかなって思ってたんだけど、残念だなぁ」
ソファーでテレビから情報を集めていたミオが、頭の後ろで腕を組み、背もたれに体を預ける。
そういや、この間行ったリゾートホテルでも、宿泊前日と初日の夜は雨が降っていたよな。
もはや、間が悪いどころの話ではない。どうしてここぞという場面で、俺たちは悪天候に見舞われてしまうんだろうか。
俺が仕事中、雨に降られるだけなら好きにしてくれればいいけど、明日からの二日間は、ミオのお祭りデビューがかかっているんだぞ。
そのために、デパートまで足を運んで浴衣を買いに行き、着付けの練習を何度も繰り返してきた。
それが、たったの二日間雨模様になるだけでフイになるだなんて、あまりにも無慈悲すぎやしないか。
こんな事は考えたくないけど、やっぱり俺が縁結びの神社で引いた、あの末小吉が今日 まで響いているのかなぁ。
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