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40.夏祭りを控えて(3)

「ま、これで天気の方は心配いらなくなったとして。明日は何時に現地へ行くか、だね」 「お祭りって何時からやってるの?」 「街の掲示板には十六時からって書いてあったけど、さすがに始まってすぐは、まだ明るすぎるかもだな」 「暗い方がいいって事?」 「雰囲気が出るって意味ではそれもあるし、何より昼間は暑いだろ? 〝納涼〟って名が付いてるんだし、行くならやっぱり、陽が落ちて、涼しくなってからかなって思うんだよ」 「なるほどー。じゃあ晩ご飯くらいの時がいいのかな」 「そうだね。あと、せっかくだから、晩ご飯は控えめに食べて行こう」 「んん?」  よほど思いがけない、真意を汲み取りにくい提案だったのか、ミオは眉をしかめつつ、俺の方を向き直した。 「ごめんごめん、言葉足らずだったな。納涼祭では、美味しいものを売ってる屋台やら出店が待ってるから、って言いたかったんだ」 「その屋台とかお店で、ご飯を食べようってこと?」 「まぁ平たく言うとそうだね。もっとも、出店じゃガッツリ食べられるご飯ものは無いんだけどさ」  とは言ったものの、俺も子供の頃の知識だけで語っている部分があるため、今の出店事情は分からない。  大きな公園や広場でよくやっている何とかフェス、みたいなグルメの祭典だったらまた話は別なんだが、あれを出店に数えていいものか迷ったので、あえて縁日のものに限定した。 「分かったよー。とにかく、明日の晩ご飯は少なめにしてから行くんだよね」 「そういう事。できるだけ腹に余裕を持たせておいて、お祭り会場に着いたら、うまいものをたくさん飲み食いしよう」 「はーい! えへへ、明日が楽しみだなぁ」  納涼祭への期待に胸を膨らませたミオは、明日が待ちきれないといった様子で、俺の腕を優しく抱きしめてきた。  今日は食べるものの話をしたが、出店の魅力はそれだけに留まらない。  人生初のお祭りへ出かけるミオにとって、きっと明日は、驚きと喜びに満ち溢れたものとなるだろう。

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