363 / 833
40.夏祭りを控えて(4)
俺もお祭りは少年時代以来の参加になるから、実を言うと内心ワクワクしている。
子供の頃はわずかな小銭を握りしめて、何を食べようか、何をして遊ぼうかを真剣に吟味したものだが、大人になった今は安定した収入があるからね。
気になったものは積極的に食べ、そして遊ぶ事で、小さい時に果たせなかった夢を叶えたいと考えているのだ。
そういう意味では、ミオよりも俺の方が、明日の納涼祭を待ち遠しくしているのかも知れない。
もっともこれが平日開催だったら、その足取りは重く、ろくに楽しめそうにない事が容易に想像できる。だからこそ、つくづく、土日休みの会社に勤めていて良かったと思うのである。
「ねぇお兄ちゃん。明日行く神社って――」
「何だい? 一応先に言っておくけど、あそこは縁結びの神社じゃないぞ」
「むー」
聞きたい事を言い当てられ、おまけにその答えが期待はずれだったからか、ミオは頬をぷうっと膨らませた。
うん、そういうところがすごくかわいい。
あえて口には出さなかったけど、恋みくじのお告げに頼らなくても、俺とミオの相性は最高だと信じてるから。
*
翌日の土曜日。
軽く夕飯を済ませた俺たちは、窓の外が暗くなってきたのを見計らい、出発の準備を始める。
準備と言っても、やる事は体に虫除けスプレーを振り、浴衣を羽織るだけなのだが、着付けの時点でちょっとした疑問が浮上したのは予想外だった。
「お兄ちゃん、浴衣の下にシャツって着てもいいの?」
「え? いいんじゃないか?」
「でも、シャツを着たらこうだよー」
と言って、ミオがシャツの上から浴衣を羽織ると、衿元 から、丸首の白い布地が顔を見せる。
「なるほど、そういう事か」
「ね。何だかしっくりこないの」
「て事は、上は裸にしなきゃダメなのかな」
「んー、ボクはそれでも構わないけど……」
ミオは一旦、浴衣を折り畳んで脇へ置くと、着ていたシャツを脱ぎ始める。
普段から見慣れているミオの脱衣が、この時だけはやたら艶かしく映ったので、俺は反射的に目を逸らしてしまった。
ともだちにシェアしよう!