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40.夏祭りを控えて(5)
「ねぇお兄ちゃん。ショーツは穿いてても大丈夫?」
一つの問題が片付いたかと思ったら、さらに妄想をかきたてられるような質問が飛んできたので、俺は動揺を悟られないよう、つとめて冷静に答える。
「さ、さすがにショーツは穿いてないとまずいんじゃないかな」
十歳の男の子が下着として、女の子用のショーツを選んでいるのはこの際問題ではない。
なぜなら、ミオはショーツ姿に何の違和感も抱かせない、可憐な〝ショタっ娘〟だからだ。
さっきからミオが問うているのは、浴衣の下に肌着を着るのは構わないのか? という事であって、その答えは間違いなく「OK」だろう。
でなければ、何らかのアクシデントで浴衣がはだけた際、とんでもない事態を引き起こしてしまうおそれがあるのだから。
「お兄ちゃんはどうしてたの?」
「ん? 俺?」
「うん。お兄ちゃんが浴衣着たの、子供の時には無かったのかなーって」
「子供の時は無かったけど、大人になって、旅館へ泊まりに行った時は、何度か着た事はあるかな」
「その時はどんな格好だったのー?」
「旅館に用意してある浴衣は基本的に部屋着みたいなものだから、下はもちろん穿くとして、上もシャツだったよ」
「そうなんだ。じゃあ、浴衣の着方はお出かけ用とお部屋用で違うのかな……」
ミオは、Tシャツを脱ぎかけにしたまま、あごに手を当てて考え込み出した。
いかん、こんなところで足踏みをさせている場合ではない。早く正しい答えを導き出さなければ、お祭りに行く時間が大幅に遅れてしまう。
せっかく我が家にはパソコンがあるんだから、インターネットを使って、浴衣と下着に関する記事から情報を引き出そう。
「ちょっと待っててな、ミオ。今、ネットでササッと調べちゃうから」
「うん。それじゃボクは、今のうちに他の準備をしておくね」
ミオは脱ぎかけていたシャツの裾を下ろすと、一旦自分の部屋へ、扇子や巾着袋などの小物類を取りに戻っていった。
現在時刻は夕方の六時半ちょい。
チャッチャと調べ物を終わらせて出かけないと、せっかくのお祭りを楽しむ時間が減ってしまう。
頭をフル回転させるんだ、義弘。
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