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40.夏祭りを控えて(6)
「……お。見つかったよ、ミオ! 男用浴衣の肌着について、詳しい解説が載せてある」
「えー? なになにー?」
部屋から戻ってきたミオは、両手に小物類を抱えたまま、パソコンの横に据え置かれたディスプレイを覗き込む。
「ほら、見てごらん。このサイトによると、浴衣の下に肌着……つまり、Tシャツとかショーツは着けた方がいいってさ」
「そうなの?」
「うん。動き回ると汗をかくから、その汗を吸収する意味合いで必要なんだと」
ちょっとしたお色気漫画だと、女性キャラは浴衣の下には何も穿かないのが定番だったものだが、それを現実でやってしまうと、ドえらい事になるんだろうな。
「でもお兄ちゃん。シャツだとさっきみたいに、浴衣の隙間からはみ出ちゃうよ」
「そこはほら、浴衣の衿に隠れるようなVネックのシャツとかで見えなくすればいいんじゃないかな」
言葉だけでは分かりづらいと思ったので、俺はミオの方を向き、自分の胸の前でVの字を描いてみせる。
「なるほどー。そういうシャツならボクも持ってるから、後で着替えてくるね」
「オーケー、じゃあ上はそれでいいとして。肝心の下がなぁ」
「んん? ショーツでいいんじゃなかったの?」
「サイトの下の方に書いてあるんだけどさ。男が浴衣を着る場合、ステテコを穿く事もおすすめしてきてるんだよ」
「なぁに、それ?」
案の定、そういう質問が飛んでくる。
何しろ女性的な魅力に溢れ、何の違和感も無くショーツを穿きこなしているミオにとっては、ステテコなんて肌着は無縁だったのだから。
「ステテコってのは、簡単に言うと下着の一種だな。丈が膝くらいまであって、それだけで部屋をうろつけるくらいのね」
「じゃあ、浴衣を着る時、下着の上にまた下着を穿きましょうって事? 変なのー」
「う。確かにそうなんだけど、昔はそれが普通だったんだよ。当時は、着物やら袴の下にはショーツを着けなかったからね」
さっきから下着、イコール、ショーツという事で話を進めているが、俺は中学生以来、トランクス一筋だという事は予め断っておきたい。
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