379 / 833
41.ショタっ娘のお祭りデビュー(7)
「ボクも頑張ってお兄ちゃん描いたよー。見て見てぇ」
にこやかで、どこか自慢げなミオが、こちらに見えやすいよう配慮して、顔が描かれたせんべいを向けてくれる。
……うん。画力は向上しているな。
少なくとも、以前図画工作の時間に描いた俺の肖像画よりも、頭の毛が三本多い。
どっちにしても頭皮がさみしい事には変わりないのだが、ボトルの先端から直に出てくるチョコソースを使った似顔絵にしては、なかなかいい出来だと思う。
「どう? お兄ちゃん」
「えっと、そうだな。とても上手く描けてると思うよ。特にその、何だね、元気いっぱいそうなところがハッキリと伝わりやすい感じで」
「ほんと? えへへ、良かったぁ。大好きなお兄ちゃんの顔だから、一生懸命描こうと思ってたんだよー」
「ありがとな、ミオ。嬉しいよ」
はぁー、キュンとするわ。こんな事言われて、嬉しくない彼氏がいるわけないじゃん。
何しろまだ十歳のショタっ娘ちゃんが、額にうっすら汗をにじませるほど、真剣に、俺の顔を描いてくれたんだから。
これはもう、芸術というより宝物なんだよ。
「なぁミオ。このおせんべい、食べる前に写真を撮っておこっか」
「うん。じゃあ、二枚並べて撮ろ?」
「並べて? 一枚ずつじゃなくていいのかい?」
「んと、その方が、おせんべいの中でも一緒にいられるかなって思って……」
そう言って、上目遣いで俺の顔色を窺うミオが、愛おしくてたまらなかった。
だから俺は、衝動的に、その小さな体を抱き寄せてしまっていたんだ。
「お兄……ちゃん?」
「あっ! ご、ごめん! つい……」
「ううん、いいの。ボク、お兄ちゃんに抱っこしてもらえて幸せだよ」
俺の腕の中で頬を寄せながら、そんな事を言われたら、より一層、強く抱きしめたくなっちゃうよなぁ。
さっきから、俺の中の胸キュンメーターがレッドゾーンまで振り切ってしまって、一向に戻る気配がない。
柚月義弘、齢 二十七にして、ようやく悟ったような気がする。これこそが、恋人とイチャつくって事なんだろうな。
これがあの元カノだったら、「くっつかないでよ。ただでさえ暑苦しいんだから」と突き放されていたに違いない。
俺の彼女がミオでほんとに良かった。
ともだちにシェアしよう!