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41.ショタっ娘のお祭りデビュー(11)
ほぼ全部が浸かっているラムネの瓶を取り出すなら、一面の氷水に手を突っ込む事になるわけだが、ミオは平気だろうか。
「ミオ、メロンは分かる?」
「えっと、この緑色のだよね」
ミオはまくった浴衣の袖を押さえつつ、氷水でキンキンに冷やされた緑色の瓶を掴み取る。
「ひゃっ! つめたーい」
「はは。これができるのも、夏ならではだよな」
ミオが無事にラムネを取れるまで見守った後、俺も黄色い飲料が詰まった瓶の先端をつまみ、ゆっくりと氷水から引き出した。
「色だけで選んでみたけど、これって何味なんだろうな?」
「うーん。お兄ちゃんのはパインとか?」
「おっ、よく分かったねぇ! 黄色のラムネはパインで、そっちのかわいこちゃんが取ったのは、メロンのフレーバーだよっ」
ちょうど手すきになったおじさんが、俺たちの方にやって来て放ったセリフがこれである。
「かわいこちゃん」って普通、女性に対して使う言葉だと思うんだけど、またここでも、ミオは女の子だと間違われたのか。
「フレーバー……?」
当のミオは、かわいこちゃんと呼ばれた事よりも、フレーバーという横文字の方が分からないらしく、首を傾げながらつぶやきを繰り返している。
まぁ分からんよな。食品業界におけるフレーバーは、だいたい香味とか風味といった意味合いで使われるんだけど、俺たちのような日本人には耳慣れない英単語なのだ。
「ねぇお兄ちゃん。今のどういう意味?」
「えっと、フレーバーの事だよな」
俺は屋台のおじさんに聞かれないよう、フレーバーの意味をこっそり耳打ちする。
「まぁ簡単に言うと、この場合はメロンっぽいって意味だね」
その時点でミオも何かを察したらしく、小鳥のさえずりみたいな小声でささやき返してきた。
「メロンっぽいって事は、メロンは全然入ってないんだよね?」
「まず入ってないだろうな。申し訳程度に、香り付けくらいはされてるかもだけど」
何しろメロンは高級品だから、果汁を入れてたらメーカーに儲けが出ないんだよ、とまで言ってしまったら、あまりにも生々しく夢のない話になるので、ぐっと言葉を飲み込んだ。
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