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41.ショタっ娘のお祭りデビュー(12)
日本中をくまなく探せば、ほんとにメロンの果汁を配合したラムネの一本や二本はあるんだろうが、何せ「フレーバー」って言っちゃったからね。
屋台のおじさんがバカ正直だったという笑い話で済むならそれでいいんだけど、ミオのように純粋な子供にとっては、難しい言葉で煙 に巻かれたような気持ちになりかねないので。
「じゃあ、お兄ちゃんのパインも?」
「たぶんね。ラムネが持つ本来の味をフイにしたくないから、色付けだけでそう見せてるんじゃないかと」
なんて、幼い子供の夢をぶち壊さないよう、推測するフリをしつつ懸命にフォローしているんだけど、本来は俺の役目じゃないんだよなぁ。
どうしてここのおじさんは、軽々 に口を滑らせるかな。
「ま、ラムネの詳しい事情はこの辺にするとして、とりあえず飲ませてもらおうよ。まずは喉を潤さないとな」
「うん。それじゃ、どこかでお休みしながらの方がいいよね」
「そうだね。どこか、休憩ができるベンチでもあればいいんだけど……」
俺がそう答えながら、首を伸ばして境内を見回していると、ラムネ屋台のおじさんが声をかけてきた。
「兄ちゃんたち。うちに休憩所があるから、そこで飲んでいきなよ」
「え、いいんですか?」
「構わないよ。ウチも空き瓶を回収しておきたいから、ここに置いていってくれると助かるのさ」
「なるほど、そういう事なんですね。では、お言葉に甘えます」
「あいよ、ごゆっくり!」
屋台の裏側にある休憩所へと通された俺たちは、各々パイプ椅子に腰掛け、テーブルの上にお絵描きせんべいが入った袋と、さっき買ったばかりのラムネの瓶を置く。
実を言うと、自宅のマンションから、お祭り会場である神社まで結構な距離を歩いて来たので、休憩所で一息つけるのはありがたかったのだ。
「ふー、何とか人心地ついたな。ミオ、疲れてないかい?」
「まだ下駄に慣れてないから、ちょっぴり歩き疲れたのはあるけど、大丈夫だよー」
「そっか。ミオは下駄を履くの、初めてだったね」
「お兄ちゃんは子供の時、下駄でお祭りに行ってたの?」
「うん。浴衣を着る時はもっぱら下駄か草履だったな。最近はスニーカーで行く人もちらほらいるみたいだけど」
それじゃあ風流が無いかもなぁ、というのはあくまで俺個人の主観による意見なので、あえて口にはしなかった。
似合う似合わないは別として、歩きやすさを重視するなら、機能性に優れたものを履くのは至極もっともな選択なので。
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