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41.ショタっ娘のお祭りデビュー(13)
「さ、ラムネがぬるくならないうちに飲むとするか。ミオ、瓶の開け方は分かる?」
「んーと。この白いのを剥がすでしょ……あれ?」
ラムネの飲み口を覆っていた白いカバーを剥がし、フタを外したミオが、首を傾げながら、瓶の先端を覗き込む。
「ねぇお兄ちゃん。瓶の中に、何かが詰まってるよー」
「はは、やっぱりそこに気が付くよな。それはビー玉だよ」
「え? おもちゃのビー玉?」
「平たく言うとそうだな。そのビー玉は、ガラス瓶と同じ材料で作ってあるのさ」
厳密にはビー玉、つまりB玉ではなく、ラムネ瓶の栓として適した規格のA玉を用いてあるから正式名称は異なるらしいのだが、小さなガラス玉は総じてビー玉と呼ぶ風習が根付きつつある。
今でこそ、おもちゃや飾り付け用としてのビー玉が主流ではあるが、元々は、瓶に封じ込めた炭酸を逃がさないように作られた、ガラス玉の副産物だったという事だ。
かような話をなるべく噛み砕いて説明すると、ミオは目を輝かせながら、終始興味深そうに聞き入っていた。
おもちゃの起源はもちろんながら、ラムネ瓶の仕組みを知った事が、何よりミオの知的探究心を強く刺激したようだ。
「で、だ。その瓶をどう開けるかなんだけど」
「うんうん」
「さっき外したフタから輪っかの部分を取って、ビー玉をそっと押し込むんだよ。あんまり勢いよくやると、ラムネが吹き出しちゃうから気を付けてな」
「はーい。じゃ、ゆっくりやってみるねー」
ミオは、瓶から取り出したフタから余分なパーツを取り除き、そっと飲み口に押し当てる。
両手で瓶を押さえつつ、右手の親指に力を込め、栓をしているビー玉を押し込むと、炭酸の抜けるプシュッという音と共に、瓶に封じ込められているメロン風の香りが漂い始めた。
「わぁ。シュワシュワしてるー!」
「上手に開けられたねぇ。大体は、ビー玉を押し込んだ勢いで、ラムネが吹き出てきちゃいそうになるもんなんだけどな」
「そうなの?」
「うん。少なくとも、俺が子供の頃はね。でもこの様子だと、そんな心配もいらなさそうだ――」
ミオに続いてラムネの栓を押し込みながら話を続けていると、俺の瓶からは、まるで不意討ちのごとく泡が立ち上がってきて、表面張力の限界を迎えようとしていた。
「――と思ったら溢れるー!!」
「あははは」
ミオが楽しそうに笑ってくれたから救われたようなものの、今にもこぼれそうなパインフレーバーのラムネを、啜 るように飲んでいる三十路近くの男ほど、珍妙なものは無いよな。
これが升酒とかなら、まだ絵になるんだろうけど。
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