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41.ショタっ娘のお祭りデビュー(35)

「ところでなんだけど。ミオは、好き嫌いとかある?」 「んー? それって、食べ物の好き嫌い?」 「うん。例えば、この焼きそばにも入ってる人参とかさ」 「人参は嫌いじゃないけど……」  ミオはそこまで話すと、途端に口ごもった。 「ん? どうかした?」 「えっとね、ボク、生で食べるのだけはちょっと苦手なの」 「生っていうと、サラダとか、野菜スティックみたいな?」 「うーん、そうかも。サラダはまだ、お芋さんとかマヨネーズと一緒に食べられるからいいけど、野菜スティックって、普通の棒でしょ?」 「ああ、そういう理由か」  要するにミオは、自分の中で野菜スティックとは、生の野菜を太く長くカットしただけで、何もつけずに食べされられるものなのだ、と思い込んでしまったらしい。  無理もない話だな。だいたいは、ディップという調味料と共にいただく事が多い野菜スティックだが、とあるテレビのコマーシャルでは、何もつけないで、無心になってポリポリ食べるシーンを流し、それがさも普通の朝食であるかのように喧伝していたのだから。  野菜にそこまで思い入れが無い子供たちの目には、その異常な様相に怖気をふるい、結果として野菜スティックに抵抗を抱く事になったのだろう。  で、最近テレビを見だしたうちのミオも、あのコマーシャルの影響で、ご多分には漏れない子になったというわけだ。  俺の教育方針としては、本人が嫌がっている事を無理強いしてまで、野菜スティックを克服させるつもりはない。  生野菜の味を知る事はもちろん大切なのだが、今のミオには、調理して味を付けた野菜を食べさせてあげた方が、箸は進むだろうと思うのである。  それが甘やかしだと指摘されるかも知れないけど、別に、野菜スティックを生で食べなきゃ法律で罰せられるわけじゃないし、成人になるための儀式ですらないし。  苦手なものを「嫌でも食べろ」と強要する事は、ミオに対するになると思うので、俺は絶対、無理はさせないつもりだ。 「ミオ、心配しなくていいからな。給食はともかくとして、うちじゃあ、ミオの好きな野菜の食べ方を選ばせてあげるからさ」 「うん。ありがと、お兄ちゃん」  ミオは箸を止め、笑顔で答えたが、やはりどこか申し訳なさそうだった。  自分がわがままを言ってしまったとか、あるいは、俺に気を遣わせたと思ったのかも知れない。  俺はそんなミオに、食事を楽しむ事の方が、二人にとって何より貴重な時間なんだよと伝えたのだった。  何たって、俺たちは結婚の約束をした恋人同士だからね。

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