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41.ショタっ娘のお祭りデビュー(37)
「これは俺の勝手な想像だけど、途中から、おもちゃとして売る方に方針を変えたんじゃないかと思うんだ。何しろお手軽だし」
そっちの方がプラスチック製のヨーヨーに比べて安上がりで済んだのかどうか、当時の物価を知る術はない。
ただ、手軽さという面と、ヨーヨーとして売るための作りやすさを考えれば、ゴム風船の中に水を入れ、ボヨンボヨンさせるだけでも充分だったのだろう。
たぶん。
「なるほどー。ヨーヨーにもいろいろあるんだね」
「まぁ、とにかくだ。お祭りで貰えるあの水ヨーヨーは、主に釣って取る事が多いんだよ」
「ん? 『釣って』?」
釣りという大好きなキーワードが耳に届いた途端、ミオの耳がピクリと動く。
「そうだよ。やってみるかい?」
「うん! 水ヨーヨー釣ってみたーい」
ミオのこの即答を聞くに、この子は魚に限らず、とにかく釣りという遊びが好きなんだろうなぁ。
いい趣味を持ったな。
「よし、それじゃ水ヨーヨー釣りに行こう。ミオは筋がいいから、きっと簡単に釣れるよ」
「えへへ。そうだといいなー」
俺たちは焼きそばの空きパックをくずかごに捨てると、まっすぐにヨーヨー釣りをやっている屋台を目指した。
まだ時間に余裕はあるし、デザートとなる綿飴を買うのはひとまず後回しだ。
そうしてやって来た水ヨーヨー釣りの屋台では、先客の子供たちが保護者に見守られながら、お目当てのヨーヨーを釣り上げられるか否かの緊張感を味わっていた。
「わー。水ヨーヨーがいっぱい浮いてるぅ」
「すごいだろ。この中から、ミオが気に入ったやつを釣っていいんだよ」
水槽に浮かぶ無数の水ヨーヨーに魅入られたミオは、目をキラキラさせつつも、慎重に品定めを始める。
気に入ったやつを釣っていいとは言ったが、必ずしも、それが釣れるとは限らない。ただ、今は夢の無い話はしないでおこうと思い、あえて黙っておいたのだった。
「はい、いらっしゃい。釣り針、一個で三百円だよ」
数多の水ヨーヨーを見比べるミオに気づいた店番のお婆さんが、優しげな表情を浮かべつつ接客を始める。
こういう屋台では、釣り損なった子供たちのために、おまけで一個だけくれたりする場合があったんだが、今でも同じなのだろうか。
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