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42.田舎に帰ろう!(1)
「柚月、お疲れさん。ほれ」
来たるお盆休みの連休を二日後に控えた、とある日の社内にて。
現在の時刻はすでに十八時半。定時退社の時刻を大きく回って残業に突入し、目の前に積み上がった書類の山に頭を抱えていたところ、同僚の佐藤が、缶コーヒーを差し入れにやって来た。
「おお、ありがとう。というか、お前がこの時間まで会社にいるって珍しいじゃん」
「まぁな。オレも明後日から地元に帰省するさかい、残したらアカン仕事を片付けとったんや」
「そっか。で、終わりそう?」
「何とかな。明日は帰省の準備もあるから早よ帰りたいし、今日中に何とかするわ」
佐藤はそう話すと、凝り固まった肩の筋肉をほぐしながら、首のストレッチを始めた。
この様子だと、今日は相当机にかじり付いていたらしいな、佐藤の奴。
「お前の方はどや? 盆休みに入ったら、ミオちゃんを実家に連れて帰るんやろ。準備、できとるんか?」
「うん、そっちの方は抜かりないよ。ただ、今のミオは楽しみと緊張が半分ってところなのがな」
「ミオちゃんは、柚月の親とは今回が初顔合わせになるんやろ? いくら写真でお互いの顔を知っとっても、内面だけは会うてみな分からんから、緊張するのはしゃあないで」
「そこなんだよなぁ、俺が心配しているのは」
仕事の手を完全に止めた俺は机に肘をつき、親指と人差し指で眉間にシワを寄せる。
これは、頭を悩ませるような事が起こった時にやる俺のクセなのだが、さすがに鈍感な佐藤でも、俺の気苦労は察したらしい。
「なぁ柚月、お前の親は鬼畜生 やあらへんのやで、きっと喜んで迎えてくれるて。そうでなかったら、そもそもミオちゃんを里子にする話から反対するやろ」
「そうだな。いや、うちの親に関しては心配してないんだよ。特にお袋は『いつ、顔見せに来てくれるの』って心待ちにしてるくらいだからさ」
「ほな、ひょっとしたら、ミオちゃんが実家の雰囲気に馴染めないかも知れへん、とかの心配か?」
という佐藤の問いに、俺は無言のまま、大きく頷いて答える。
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