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42.田舎に帰ろう!(5)

    * 「お帰りなさい、お兄ちゃん!」  約二時間半集中して残業を終え、ヘロヘロになって帰ってきた俺を、ミオは目一杯の笑顔で迎えに来てくれた。 「ただいま。ごめんなミオ、帰りが遅くなっちゃって……」 「んーん、気にしないで! お兄ちゃん、お家のために頑張ってお仕事してるんだもん。いつもありがとね」  優しいなぁ、ミオ。今に始まった話じゃないが、この子はほんとに天使のようだ。  嬉しいからいっぱいナデナデしちゃおう。 「俺の方こそありがとなミオ。いい子いい子」 「くぅーん。お兄ちゃんの『いい子いい子』大好き……」  ナデナデがよほど心地良かったのか、普段は子猫ちゃんなミオが、珍しく子犬のような声で甘えてきた。  ずっとこんな感じでイチャイチャしていたいんだが、実家に帰っても同じ調子だったら、果たして親父とお袋はどういう反応を示すのだろうか。  このくらいなら、微笑ましい親子のコミュニケーションに見えるかな? 「よしよし。ご飯はもう食べたかい?」 「うん。お兄ちゃんが作ってくれてたおかずを、チンして食べたよー」 「そっか。俺も腹が減ったし、着替えが終わったら、早速飯にしようかな」 「じゃあ、ご飯はボクがチンしておくから、お兄ちゃんは先にお着替えしてて!」  ミオはそう言うや、俺が作り置きしておいたおかずが盛られた容器を冷蔵庫から持ち出し、電子レンジに詰め込んでいく。  今晩のおかずはいずれも小鉢に盛ってあるので、全部まとめて温めても、大きめな電子レンジのスペースにはまだ余裕があったのだ。 「待っててねお兄ちゃん。すぐできるからー」 「ありがとう。ミオがいつもお手伝いしてくれるから、俺も楽で助かるよ」 「えっと。ほんとは、ボクがご飯を作れたらいいんだけど……」 「ん? それは、花嫁修業という意味でって事かな?」  俺が部屋着に着替えながら何となしに尋ねてみると、ミオは首を傾げて聞き返してきた。 「ハナヨメシュギョーってなぁに?」 「え。花嫁修業は何と言うか、立派なお嫁さんになるために必要な、家のお仕事を練習する、みたいな事かな」 「そうなんだ! それじゃボク、頑張らなくちゃだね」  そう言って両手のこぶしを握ってみせたのは、きっと、常日頃から俺のお嫁さんになりたいと話すミオの、花嫁修行に打ち込む決意の表れなのだろう。

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