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42.田舎に帰ろう!(8)

「それって、お兄ちゃんが苦手な人に出会っちゃったとか?」 「まぁそれもあるよな。お見合いでは二人っきりになって、趣味やら将来設計なんかを話し合うんだけど、考え方がことごとく違ってさ。結局その場で物別れに終わっちゃうんだよ」 「じゃあ、お付き合いした人はいないんだよね?」  お見合いが何なのかを徐々に理解してきたミオが、若干不安げな表情で尋ねてくる。  何が不安なのかを推察するに、おそらくミオは、俺がまたお見合い相手を紹介されて、新しい恋人ができやしないかと心配になってきたのだろう。  もっとも俺自身は、あの元カノと、立ち直れないくらいの別れ方を経験したもんだから、いかにお見合いとは言え、女性と二人っきりになるのは正直怖いんだよなぁ。 「お見合いだけで言えば、付き合えた人はゼロだね。せいぜい、一度だけデートに行った事があるくらいだな」 「そうなんだ。お嫁さんを見つけるのも楽じゃないんだね」 「うん。最近はお見合いという引き合わせも減ってきたし、なおさら大変だな。あと、結婚相談所に行っても、登録している女性の理想が高すぎると、お呼びがかからない事もある」 「理想? 例えば『かっこいい人じゃなきゃダメ』とか?」 「それもあるよ。と言うか、むしろそれが一番の条件かもな。あとは『年収が一千万円以上の人を望みます』とかだね」  結婚相談所へ駆け込む女性たちの高望みに触れ、何か思うところがあったのだろう。俺の前ではいつも笑顔を絶やさないミオが、今回ばかりはとても複雑そうな顔をしている。  そりゃ登録している女性の全員が全員、お金やイケメン目的ではないんだろうけど、行き遅れて久しい(ひと)ほど、理想の男性像を思い描き、厳しい条件をつけるのは、どこの相談所でもよくある事らしい。  結婚相談所で云々は、女好きな佐藤から仕入れた情報と、某ウェブサイトのニュースでも、散々ネタとして取り上げられていたから、概ねその通りなんだろう。  これは男性側にも言える事だが、高いお金を払ってまで、自分にマッチする相手を紹介してもらうからには、やっぱり〝当たり〟を引きたいんだろうな。  何しろ、結婚ってのは人生における最大級のイベントだからね。失敗したくない気持ちはよく分かるよ。

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