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43.ロングドライブの果てに(1)

「うわ。もうこんなところからも詰まってるのか!」  お盆休みの帰省当日、とある高速道路上にて。  ハンドルを握る俺が、およそ二十キロの渋滞と表示された電光掲示板を見て、絶望のあまり声を上げてしまった。  それがあまりにも悲壮感に満ち溢れたトーンだったからか、助手席に座っていたミオが、心配そうな顔で俺を見つめてくる。 「どうしたの? お兄ちゃん。何か困りごと?」 「あ。ああ、ごめん。ちょっと取り乱しちまった。実はこの先が渋滞になっててさ」 「ジュウタイ?」 「うん。何らかの理由で、車が本来の速度で走れないほど混み合っている事を渋滞って言うんだよ」 「そうなんだ。でも、どうして渋滞してるの?」 「それはまぁ、俺たちと似たような考えの人がいて、皆こぞって同じ高速道路を走ろうとしているからだろうな。他にも、事故渋滞とかのケースもあるけど」 「じゃあ、今並んでる車って、皆お盆休みの人たちが乗ってるのかな」  ミオがそう言いつつ、バックミラーを覗き込むと、俺たちの後に続く車も、やはり大減速を強いられていると教えてくれた。  お盆の行事のために帰省する人や、せっかくの大型連休なんだから、この機を活かして、どこかで羽を伸ばしたいとか、人それぞれの理由があるのだろう。  でも、去年はこんなに渋滞しなかったんだけどなぁ。もしかすると、途中で新しい観光スポットでも出来たのかも知れないな。 「ミオ、おトイレは大丈夫?」 「うん。平気だよー」 「そっか、良かった。……にしてもひどい混み具合だな。もうそろそろ正午だぞ」 「皆、お兄ちゃんの実家がある方に向かってるのかな?」 「どうだろう。実家からさらに北の、温泉街がある観光地を目指してるかもだけどね」 「へぇ、温泉があるんだ?」 「そこは結構有名な温泉だよ。食べ物もうまいし、日帰りもできる距離だから、ちょっと遊んで帰ろうって人がいるんだと思う」 「ふーん、楽しそうだね。ボクもまた、お兄ちゃんと一緒に温泉に浸かりたいな」  そう言って下唇に人差し指を当てたミオは、どうやら先月泊まりに行った、高級リゾートホテルに湧き出た天然温泉の事を思い出しているようだ。  我が家では、できるだけ一緒にお風呂へ入る事にしているのだが、やはり温泉の開放感と心地良さは格別なのだろう。

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