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43.ロングドライブの果てに(3)
「いらっしゃいませ。二名様ですか?」
「はい。二人です」
「かしこまりました。それでは、お好きな席にどうぞ。ご注文が決まりましたら、呼び出しボタンでお知らせくださいませ」
言われるがまま、外の眺めが良さそうな席を確保すると、程なくしてウェイトレスさんが、お冷やと冷水ポットを運んできてくれた。
「ぷはっ。家を出る前から何も飲んでなかったせいか、お冷やが体中に染み渡るな」
「お兄ちゃん、ずっと運転して大変だったもんね。お疲れ様だよー」
「ありがとう、ミオ。ほんとはもっと早く着く予定だったんだけど、この渋滞じゃ仕方ないよな」
「ねぇ。例えばこのまま渋滞が続くとして、ここからお兄ちゃんの実家までだったら、どのくらいの時間がかかるの?」
「うーむ。およそ二十キロの渋滞だから、今のペースで走り続けると、たぶん二時間半は下らないと思うな」
「じゃあ、だいたい三時くらいには着くって事だよね」
「そうだな。高速道路さえ下りてしまえば、あとは車通りの少ない下道を走るだけだから、そっちで移動時間を短縮できるだろうね」
――と、こんな感じで、渋滞や道路事情の話を続けながら、食べたいものの注文を済ませ、待つことおよそ五分。
さっきとは別のウェイトレスさんによって、ミオが注文したハンバーグセットが運ばれてきた。
やけに早いな。今がお昼ご飯のピークだからか、あるいは定番メニューで人気があるからかは分からないが、すでに作り置きしておいたかのような早さである。
「ねぇねぇ。お盆休みって、いつもこんな感じで道が混むの?」
ミオは、今しがたウェイトレスさんから運ばれてきたハンバーグを一口サイズに切り分けながら、お盆の渋滞について尋ねてくる。
「まぁお盆休みは帰省があるからもちろんとして、他は年末年始だろ。他にはゴールデンウィークもやっぱり混み合うかな」
「ゴールデンウィーク? 何それ? ボク、聞いたことないよー」
その発言に一瞬ギョッとしてしまったが、よくよく考えれば無理からぬ話なのか。
ミオは二歳の時に児童養護施設に引き取られ、自分が捨て子だったと知らされて以来、大人を信じられなくなり、学校に通っていなかったのだから。
それに加え、テレビもろくに見せてもらえない施設にずっと引きこもっていたら、そりゃ祝日や大型連休の事なんて、耳に入るはずがないよな。
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