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43.ロングドライブの果てに(5)
「えっと……」
俺の解説で何かに気付いたミオが、次なる質問を投げかけようとしたのだが、突如として言い淀んでしまった。
おそらく、今さっき飛び出した、あのキーワードが心に引っかかるのだろう。
ただ、このまま質問を続ければ、俺の食事の手を止めてしまいかねない。心優しいミオのことだから、それが申し訳なくて、とっさに言葉を飲み込んでしまったのだと思われる。
その優しさはとてもありがたいんだが、俺たちはもう立派な恋人同士なんだから、そんなに気を遣わなくてもいいんだよ。
「言いたいことは分かるよ。何でゴールデンタイムって呼ぶのか、その理由を知りたいんだろ?」
「うん。でも、ずっと聞いてばっかりじゃ悪いかなって思って……」
「はは。いいんだよ、気にしなくて。俺もミオとお話しするの楽しいからさ」
その言葉を聞いたミオは控えめな笑みを浮かべたが、まだどこか、遠慮しているようにも見える。
こういう場合は俺が率先して、話を続けてあげた方が、ミオも少しは気が楽になるだろう。
「要はタイムが付く場合の、ゴールデンの意味だよな。日本語訳は、さっきミオが言った通りで黄金になるんだけど、実を言うと、その語源まではハッキリとしていないんだ」
「そうなの? じゃあ、ゴールデンの意味も分かんないよね」
「確かにね。ただ分かっているのは、日本のテレビ業界では、夜の七時から十時までがゴールデンタイムに設定されてるって事だな」
実は、この時間帯の別名として「ゴールデンアワー」なる用語もあるのだが、今ミオが尋ねているのは、「一体何がゴールデンなのか」であるわけだし、新しい単語が飛び出したところで、ますます混乱のタネになるだけだから、あえて黙っておく事にした。
「とにかくその時間帯は、皆家に居て、テレビを見る割合が高かったんだ。だからゴールデンタイムは、CMを流すのにてき面なんだよ」
「ふーん。て事は、CMでアピール、ピーアール? あれ? どっちだっけ」
「まぁ、どっちでも意味合いは似たようなもんだな。とにかく売りたい商品の宣伝を、テレビを介してよく見てもらえるから、ゴールデンタイムにCMを打つのは企業にとって大切な事なのさ」
盆休みにおける渋滞の話に始まり、ゴールデンウィークを経て、ついに放送用語にまで話が広がってしまったが、不思議と疲れは感じない。
頭の柔らかいミオが目を輝かせながら、雑学をどんどん吸収して賢くなっていく。俺はその手応えを、心のどこかで楽しんでいるのかも知れないな。
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