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43.ロングドライブの果てに(6)
「ありがとね、お兄ちゃん。ボク、いろんなお話が聞けて幸せだよー」
「いやぁ、その。改めて礼を言われると、何だか照れ臭いな。ははは」
「お盆休みの話に戻るけど、いっぱいお休みがある日は、皆お出かけするから渋滞が起こるって事でいいんだよね」
「うん。ちょっと細分化すると、盆と正月は実家に帰省する人が増えるから、それに比例して、走る車の数も多くなるんだ」
「なるほどー。あ! ねぇねぇお兄ちゃん。お盆休みに、実家に帰らない人もいるの?」
その質問に答える事によって、ミオの生い立ちを思い起こさせそうな気がして一瞬ドキッとしたが、ここで嘘をついても誰のためにもならない。
今一番知りたがっている事柄について、正しい情報でもって答えるのは、里親であり、ミオの彼氏でもある俺の役目なんだ。
「割と多いよ、そういう人。ほら、佐藤っているだろ? デパートで会った変なおじさん」
「変な……」
俺が突然、自分の同僚を変なおじさん扱いしたせいで思わず吹き出しそうになったミオだが、両手で鼻と口を覆い隠し、何とかこらえ切ったようだ。
「あいつの入社一年目の時なんか、盆休みはあちこち遊び回ってたんだぜ。『彼女探しの旅や』とか言ってさ」
「旅してもいいの?」
「うん。佐藤の例は極端だけど、その年がよほど特別なお盆でもないなら、旅行するのも有りだと思うよ。現に旅行会社も、お盆休みを利用したプランを組んで売ってるからな」
「そうなんだ。皆、結構自由なんだね」
一応納得はしたものの、お盆休みに旅行するという感覚が釈然としないのか、ミオはいかにも複雑そうな顔をしている。
俺が以前、お盆はご先祖様をお迎えする日だという話をしたからか、ミオの頭にインプットされた情報とは、全く正反対の行動に出る人たちがいる事実に戸惑っているようだ。
こればかりは、地方や家庭によって違いがあるから、どれが正解かとは言えないなぁ。
お盆に決まった形式があれば、子孫はそれを継承していくだろうし、特に変わった事をしないなら、大型連休を満喫するのもいい。
ちなみに我が家、柚月 家の場合は、仏壇にいつもより多くのお供え物を捧げ、盆提灯を照らしてご先祖様をお迎えする。以上。
強いて何かを付け加えるなら、あの盆提灯は電気にて照らすタイプで、回転灯に描かれた模様がゆっくり回っていくから、とても幻想的で美しいんだよな。
ミオも気に入ってくれるといいけど。
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